お兄さんは頭を打ったことにしました_12


プロイセンの申告通り、10分でついた小さな家。
車を駐車場に停めると、運転席から出たプロイセンは当たり前に助手席側に回ってきてドアをあけてくれる。

「急に悪かったな」
と、まるでレディにでもするように当たり前に手を差し出してイギリスが車を降りるのを手助けすると、これもまた当たり前に自分のものと一緒にイギリスのカバンも持って、家の玄関口へ。

ドアを開けると

「ようこそ俺様の城へ。
って言ってもルッツさえ招かねえ完全俺様のプライベートスペースだから、狭いしごちゃごちゃしてっけどな。
まあそのへんは目をつぶってくれ」

と、少し困ったような笑みを浮かべた。




中に入ると玄関の鍵をしめて、プロイセンが先にたって歩いていく。
確かに広くはないが狭いというほどでもない。

廊下を通ってたどり着いたリビングも実は几帳面なこの男らしくきちんと片付いていて、うながされるままソファに座ると、キッチンへと姿を消して、すぐコーヒーのマグを2つ手にして戻ってきた。

それをソファ前のローテーブルに置き、何故か隣に座る。
いや、別に良いのだが、普段はだいたい正面に座ることが多いので、近い距離に少し驚いた。

いつもと違うのはそれだけではない。

並んで座っているプロイセンは身体を半分イギリスの側に向けて、じっとこちらを見つめている。

不思議に思って見返すと、プロイセンの少し骨ばった手が伸びてきて、イギリスの頭をなでた。

いつも意思の強さを伺わせるプロイセンの赤い綺麗な瞳は、気遣わしげな色合いを帯びていて、しばらくそんな風に頭を撫でながら黙って見つめていたが、やがて普段騒々しいイメージのあるこの男としては随分と静かな、どこか労るような声音でイギリスに語りかけた。

「俺様な、もう国じゃねえし、絶対に配慮しないとならない相手もいねえ。
だから、吐き出しちまえるなら吐き出しちまえ。
誰にも言わねえから。
言葉で伝えられないなら、せめて泣け。
そんな思いつめた目をしてられると、見てて辛えんだよ」

……えっ?」

一瞬…言われている意味がわからなかった。

しかしすぐ思い出す。
プロイセンはドイツの兄だ。

ドイツに何か言われたのか?」


イギリスはすぐにその場から逃げてしまったが、ドイツが気にしてプロイセンに頼んだのかと思って聞いたのだが、プロイセンは少し意外そうに

「ヴェスト?何かヴェストが関係してるのか?」
と、眉を寄せた。

別にプロイセンは嘘をついているようには見えないし、嘘をつく理由もないだろう。
一応今日のことは知らないと信じて

「じゃあ、なんでいきなり?」
と聞くと、プロイセンは少し迷うように視線を踊らせて、それから、はぁ~っとため息をつきながら、ガシガシ頭を掻いた。

それからどう言おうか少し悩んでいるようだったが、結局決まったらしい。
短く息を吐き出して、またイギリスに視線を合わせて言う。

「俺様な、会議の時はスタッフルームで会議室の状況を見ながらリアルタイムで資料作成したりしてんだよ。
で、今日もそのために別室に詰めてたんだけどな、昼休憩が終わったあたりからお前の様子がおかしかったから、ずっと気になってたんだ。

お前気づいてないかもだけどつか、他の奴らも気づいてないかもだけど、感情がすごく目に出るんだよ。
で、午後、ずっと何か辛いこと我慢してるような目をしてたから、つい誘拐しちまったってわけだ。

俺になんか言えねえっつ~んなら、それでも良い。
お前に無理させたいわけじゃねえから、泣きたいならただ泣けばいいし、怒りたい事があんなら八つ当たりでも良いから罵っても殴ってもいい。

もちろん話したいなら全力で話を聞くし、単なる愚痴なら自分の心の中だけにとどめて、何か助けになれるなら全力で協力する。
お前の気持ちを少しでも楽にしてえんだ」

今まで辛い時に労られた経験なんてほぼないに等しい
だからそう言われた途端、こらえていた何かが決壊した。

抑えていた分、溢れ出たそれは激しくて、ぼろぼろと滝のような涙を流して泣き始めると、プロイセンは黙ってイギリスの頭を引き寄せて、

「辛かったな。よく我慢してたよ、お前」
と、事情も知らないのにそう言って、なだめるように背をさすってくれた。



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