お兄さんは頭を打ったことにしました_6

会議開始5分前
モニターをつけるとディスプレイの向こうにイギリスの姿。

童顔で細くて少年のような外見なのに、少し野暮ったいくらいのかっちりしたスーツを着ているのは変わらない。

最近よくイギリス邸によく遊びに行くようになっていたが、その時にはやはり少しクラシカルな印象はあるがその外見に見合ったセーターやらシャツやらを着ていて、仕事の時との違いを新鮮に感じたものだ。

でもイギリスがフランスと付き合うようになったなら、今までのような気軽さでイギリス邸を訪れる事はできなくなるだろう。

1ヶ月に1度くらいではあるが、クーヘンを焼いてイギリスに食べさせるのが楽しみになっていた。

でもそれももうできなくなる。

あんなに細いのに意外に食いしん坊で甘いものは特に好きで、美味しいと言葉にすることはなかったが、口にいっぱいリスのように頬張って、嬉しそうに目を輝かせるのを見るのが好きだった。

自分なら、もちろん言葉にしてくれるなら嬉しいが、出来ないなら別に言葉にしなくても、そんな顔を見せてくれるだけで十分満足できるのに……

そう思っても、所詮物心ついた時からそばにいるフランスにはかなわないのだ。

ディスプレイが涙で滲んだ。

一人になったのは失敗だったかもしれない。
なまじ誰もいないと思うと涙が止まらない。

それでもブログで鍛えた指は音声で情報を拾いつつ、必要な作業を行っていく。

そうして午前中の会議が終わり、昼休憩。

モニタの電源を切って、プロイセンはなんだか塩辛いサンドイッチを胃に詰め込んだ。


フランスは午前の会議には姿がなかったしまだ医務室にいるのだろうから、今頃、事情知ったイギリスは医務室に駆け込んでいるところだろう。

そうしてフランスの怪我を心配しながら、素直とは言えないが──しかたねえからずっと側にいてやるとかそんな感じの言葉をかけて、正式な付き合いが始まったりしているのだろうか

そんな事を考えるとまた涙が止まらなくなってプロイセンはハンカチで涙を拭うと、それを濡らして目を冷やした。

帰りに泣きはらした目で出ていくわけにはいかない。
まあ、幸いにして主催国スタッフなので、最悪最後に部屋を出るという方法もなくはないが、できれば早く帰って思い切り泣きたい。


昼休みいっぱい目を冷やして、しかしながら午後の会議開始5分前にはモニタをつけてスタンバイする生真面目さが、なんのかんの言ってドイツの兄である。

通信状況良し、モニタもスピーカーも良好。
もちろんいついかなる時も華麗なるタイピングをする指先も準備万端だ。

午前中の会議で若干方向性が変わった案件については変更後の情報に沿った資料をすでに作成済みで、それは会議室のプリンタに送って印刷されている。

それをドイツが参加している各国に配布することで、午後の会議の開始だ。



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