お兄さんは頭を打ったことにしました_22_完

これで自分の役割は終わるのかも知れない今日この部屋から帰るのは自分一人かもしれない
そう思うと泣きそうだったが、それでも別宅で悲しそうに泣くイギリスを思い出したら、やっぱり自分が辛い方が良いと、思う。

「そっか

プロイセンの返答を聞いたイギリスはそう言うと、なんと、

「話は聞いた。
じゃ、帰るぞ、プロイセン」
と、椅子から立ち上がるではないか。

「「イギリス?!!」」

フランスはもちろんだが、言われたプロイセンも驚いて叫んだ。

「え?え?なんで?」
「ええ??良いのかよ、イギリス」

それぞれ戸惑いの声をあげる2人に、イギリスはにこりと海賊紳士の顔で笑った。

「クソヒゲとは確かに長い付き合いだからな。
俺の好みとか性格とか熟知してるかもしれねえが、忘れてねえか?
俺の方だってクソヒゲの性格や行動性なんて嫌ってほどわかってんだよっ。

今回のはどうせあれだ、記憶喪失とかで俺だけ忘れたら、俺もショックを受けてなんとかおもい出させようと必死になるだろうなんて思ったんだろうが、残念だったな。

俺はちっとやそっと頭打ったくらいで俺のことだけを都合よく忘れる恋人なんてまっぴらごめんだ。
ついでに、信用できねえ恋人も要らねえ。
遊びの恋人ごっこならとにかく、本当に一生を共にするような恋愛にはドラマ性なんて求めてねえんだよ。
駆け引きやときめきなんて戯言を理由に常に騙し合って緊張する恋愛なんてまっぴらごめんだ。
恋人にすんなら綺麗じゃなくたって洒落てなくたって、絶対的な信頼をおいて心を預けられる、そんな相手がいい」

最後の方はイギリスは少し恥ずかしそうに赤くなった顔で、プロイセンの方を見ながら言った。

そしてぼそりと付け足す。

「お前は少なくとも俺を騙したりしたこともないし
これからだって絶対裏切らねえんだろ?」

「Ja!!」

そこでようやくプロイセンの顔に笑みが浮かぶ。

そうして立ち上がるプロイセンの腕をとって、呆然とするフランスを置いて部屋を出かけて、イギリスはドアの前で足を止めて振り返った。

そして、

「まあ、お前とこういう話すんのはこれで最後にするから、言っておく。
別にお前の恋愛の仕方が悪くて、俺のが正しいとか言うつもりはねえ。
ただお前と俺は恋愛相手に求めるもんが違いすぎるんだと思う。

だからお前が俺に自分の理想の恋人像を求めれば求めるほど俺は追い詰められるし、よしんば俺が努力したって本当にお前が望んでるような恋人にはなれねえからお前もイライラするだけだ。
逆もしかりだけどな。

俺たちは腐れ縁でたぶん互いに互いのことは一番わかってんだろうけど、それでも恋人って関係にはなれねえんだと思う」

と、それだけ言うと、イギリスはまたドアの方に向き直って今度こそプロイセンと共にフランスの部屋をあとにした。



そうして2人で帰る道々

「なあ本当に良かったのか?」
と、自分を選んでくれたのは嬉しいが、本当に良かったのだろうかと、不安になって聞くプロイセン。

それに対してイギリスは、あのなぁと、呆れたような視線を向ける。

「俺が本当に心から欧州のお行儀の良いオシャレな文化だけが好きなようなやつなら、大人しく欧州に引っ込んでて、7つの海なんて支配出来てなかったと思わないか?」

まあるい大きなグリーンアイは森の色。

「元々森に住む野生児だったしな?」
とさらに言われれば、なるほど!と納得できてしまう。

「そうか、そうだよなっ!」
と、ここでようやく心から安堵するプロイセン。

「そうだぞ。
だからお前は騙しはしねえだろうけど、もし本当に記憶喪失とかで俺のこと忘れやがったらその時は弓で射殺してやるから、覚悟しとけよ」

という言葉さえ、甘い睦言に聞こえる自分は重症だ、と、思うが、数百年の片思いを経て想いが通じた恋人様は何を言ったって可愛いに決まってる。

「もちろん!その時はしっかりここ、左胸を狙えよ?
心臓を一撃で射抜いてくれ。そうやってイギリスに殺されるなら本望だ」

と、どうやら恋人様の方も、そんな物騒な返しが、ロマンティックこの上ない愛の言葉に聞こえるらしく、可愛らしい顔を真っ赤にして

ばかぁ……
と、世界で一番可愛らしい罵倒を投げつけてきた。

【完】



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