ぽつり…ぽつり…と、雨が降る。
…何故……?
不思議に思って重いまぶたを開けると、目の前に飛び込んできた光景にびっくりしすぎて、一気に目が覚めた。
「…ギルベルト…さん?」
おそるおそる伸ばした手はギルベルトの両手に包まれる。
「…ごめん…1人にしてごめんな?お姫さん」
と、子どものように泣きながら言うギルベルトの謝罪の意味がよくわからない。
でもたいしたことが起こったのだろうということは、なんとなく…。
なにしろギルベルトも確かにアーサーにはいつも優しくて、大切にされているというのは感じていたのだが、他の2人に比べると若干喜怒哀楽が少ないように感じていた。
彼は飽くまで優秀な指揮官で軍人で…良くも悪くも感情的なアントーニョやフランシスに比べると、いつも…はしゃいでいるように見える時でもどこか冷静さを保っているような印象があった。
それがこんな子どものように感情をさらけ出して泣くなんてことは、よほどのことなのだろう。
よしよしとその頭に手を伸ばして撫でてやると、ギルベルトの綺麗な切れ長の目がびっくりしたように丸くなり、それからへにゃっと笑みが浮かぶ。
うあ~…と思った。
普段しっかりしていて、顔立ちも凛々しく厳しい風に見えるので、この笑顔のギャップがすごい。
なんというか…可愛い。
壮絶に可愛い。
別に女でもないのだが母性本能がむちゃくちゃ刺激される気がする。
きゅんとしながら見つめていると、
「お姫さんはいつでも優しいな…。
悲しくなるほど優しい……」
と、また泣く。
「泣かないで…」
と、それにまた頭を撫でてやると、まるで子どものように袖口で涙をぬぐい、
「そうだな…泣いて良いのは俺じゃない…」
と、言って涙をこらえるように唇を噛みしめるので、困ってしまった。
結局なんとかかんとか聞き出したところによると、フランシスはあれから無事、ギルベルトが現地の長老たちと会合中の館までたどりついて事情を話し、その情報を元に分析したギルベルトが、アーサーが誘拐されていたエスピノサの館まで救出に来てくれたらしい。
そして…まあギルベルトを号泣させたのが、髪。
部屋に閉じ込められた時に、どうせバレるしエスピノサには早々に事情と身分を言って、女王である姉に身代金を出させて人質交換させようと思って、ウィッグをゴミ箱に投げ捨てたままどうやら睡眠薬入りだったらしい果実酒を飲んで眠ってしまったわけなのだが、アーサーが発見された時、当然ウィッグはかぶらないままベッドに寝かされていたため、肩のあたりまでしかない地毛状態なのを見て、どうやら髪を切られたと思ったらしい。
正直それで何故そこまで嘆くのかはわからないが、まさかウィッグだったとは言えないし、奴隷売買を主な商いとするような悪人なら、もう一つくらい濡れ衣を背負ってもらってもいいか…とも思って、本当のことは伏せて、大丈夫、髪はまた伸びるから…と、何度も言い聞かせるはめにはなった。
その後…無事確保されたエスピノサは、彼に家族を売られたり、自らもボロボロになったりした人々の中に放り出されて、八つ裂きにされたらしい…というのは、船員達の間で話されていた噂で知ったのだけれど……
ともあれ…これを境に、本当にギルベルトが離れなくなった。
いついかなる時も…外に行くときはいつもアントーニョも一緒だとしても必ず同行する。
アーサーにとってはどうせ最悪身代金と引き換えに姉のところへ強制送還くらいの意識だったのだが、今回のことはギルベルトにとってはそれだけの天地を揺るがすような大事件だったらしい。
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