「はあ??」
フランスは頭に包帯をしてベッドの上で半身を起こして雑誌をめくっていた。
そして部屋に入ってきて
「お前、転んで怪我をしたって聞いたんだが…」
と言葉をかけて、そのあと『ランチの約束どうする?』と続けようとしたイギリスを見て、何故かぽかんとした表情をしたフランスの第一声がそれで、その言葉に今度はイギリスの方がぽかんと呆けてしまった。
と、それでも気を取り直して言うイギリスに対してフランスが心底驚いたような表情をして返した言葉は
「え?え?本当に誰?ランチの約束?
ゴメンネ、お兄さんこんな可愛い子に会った事あるなら絶対に忘れないと思うんだけど…」
で、イギリスはどうやら非常事態が起こっていることを理解した。
理解するとともに慌ててドイツに電話する。
通常は休憩時間は絶対に仕事をすべきではないという持論のドイツではあるが、さすがに国体が頭を打って記憶喪失になったらしいと言われれば主催国として対応しないわけには行かない。
『すぐ行く』
と短く答えたあと、実際にほんの1分ほどで駆けつけてきた。
どうやら殆どの国はまだ会議室にいたらしく、フランスと仲の良いスペインと、おそらくドイツとランチに行く予定だったのだろうイタリアも顔を出す。
「え?え?なに?ドイツ、なんなの?
イタリアとスペインまで血相変えて…」
ドアを開けて3人が入ってくると、フランスはきょとんとした表情でそう言って首をかしげた。
「む…イギリス、別に記憶がなくなっているとかではないようだが?」
と、その反応にドイツが難しい顔で視線をイギリスに向けると、イギリスが説明するまでもなく、フランスが言う。
「そそ、この可愛い坊ちゃん、ドイツの知り合い?
もしかしてドイツから素敵なお兄さんの話聞いて気になってここまで来ちゃってたり?」
と、その言葉にドイツは困惑。
代わりにスペインが呆れたように
「嫌やわ。自分何言うとるん?イギリスやで?
もうこのところアホみたいに一緒におったやん」
と、肩をすくめるが、フランスは腑に落ちないという顔をして
「え~?最近お兄さんお前のトマト面とドイツの仏頂面しか見てない気するんだけど…。
てか、なに?
もしかしてこの可愛い坊ちゃんとの出会いってお前からのサプライズのプレゼントか何か?」
と、スペインを見上げた。
どうやらスペインの事もドイツの事もイタリアの事も覚えているらしい。
忘れられているのは自分だけなのか……。
自分だけ……その事実が衝撃的すぎて、イギリスは疑う気も起こらない。
ひどく動機がして、鼻の奥がツンと痛む。
今立っている床がゆらゆらと揺れて、足元が心許ない気がしてきた。
「…ヴェ…イギリス、大丈夫?」
と、ドイツの横でイタリアが心配そうに声をかけてくるが、なんと言って良いのかわからない。
少なくとも、フランスにとってはイギリスなんて忘れてしまうくらいの存在だったのだろう。
そう思うとそこでショックを受けてみせるのも嫌で、
「変態に痴呆まで加わったらしいな、この馬鹿はっ!
つきあってられねえから、飯食ってくる」
と、吐き捨てるように言うと、病室をあとにした。
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