kmt 契約
――ぎゆう、調子に乗って走りすぎると病院に逆戻りだからなっ 中央ライン地域の北部。 もっと北に行けばのどかな農村地帯だが、北部でも中央に近い地域は大きな庭園や城の多い観光地である。 その一角にある薔薇園で有名な自然公園。 車を降りた少年は初めてみる広大な花園に目を輝かせて走り出し...
…と……さび……と チュンチュンと小鳥のさえずりが聞こえる。 眩しい…… え??!!!
体力が尽きるまで泣き叫び続けて、静かになったのはその日の夜… その静けさを逆に心配した実弥は、義勇を抱きしめたまま茫然自失の体でうつろに虚空を見つめている錆兎を見て、声もかけられずに立ちすくむ。 一方で宇髄の方はそんな空気を読む事なく、義勇の横たわっているベッドと錆兎が腰をかけて...
処置室につくと宇髄が付き添って、錆兎は取り残される。 冷静でない…ゆえに邪魔になる そう言われると錆兎もそれでもとは言えない。 死にかけている義勇を前に泣きわめかないなんて保証はできない。 それは自分でわかりすぎるほどわかる。 そうして待合室で待機しながらも、その意識はひとえに処...
錆兎が、(ああ、これで大丈夫…)と、穏やかな気持ちで最期の時を待っていた時、その最悪な事態は起こった。
次に意識が浮上したのは小さく争うような声だ。 不思議な事にそれで初めて側に人がいる事に気づく。
1人でベッドに入ると義勇はいつも思う事がある…。 それは、このまま眼が覚めなければいいのに…なんて、そんなことで… だって生きていると言う事は錆兎にただただ何か迷惑をかけ続けるという事だ。 義勇はベッドの中で小さくため息をついた。 本当に何を間違ってしまったのだろう… 最初にここ...
――おい、俺の事は気にせず寝てて良いんだぞ? 本当に夜で眠れば錆兎が書斎に戻るという時以外、錆兎が付き添っていると義勇はいつでも目を開けていた。
書斎を出るとそこはリビングで、そこから右側に錆兎の寝室、左側に義勇の寝室があり、書斎からリビングを超えると廊下。 廊下の左右にバスとトイレがある。 なのでまず書斎を出てリビングに出た錆兎は身を固くした。 薄暗い中に動く者の気配がする。 自分と義勇以外の人間がいるはずのない場所に…...
…痩せたな…… 書斎で書類に向かいながら、錆兎は悲しい気分でため息をつく。 本当に考えたくはないのだが、このままだともう手術は無理だろう…。
「義勇、今日はどうだった? あ、こいつはここ来る途中の店で一緒に来たそうにしてたからな」 宇髄と実弥が部屋を出ると、錆兎はそう言って義勇の顔を覗き込みつつ、手の中の小さなウサギのヌイグルミをそっと義勇の手に握らせた。
「なあ、実弥よぉ、もしな、ロミオとジュリエットみたいに好きな奴と一緒にいったら死ぬしかないような立場になったらな…お前だったら離れ離れになっても相手が幸せになれるなら~みたいに諦めて離れそうだよなぁ」
――なあ…宇髄がさ…錆兎の大切な相手になれないか? それは前回の騒動から半月ほどたった頃だった。
「そんな緊張しねえでくれぇ。 別に難しい話したいわけじゃなくてなぁ。 ま、どっちかっていうと逆か」 「逆?」 「そそ。みぃんな色々難しく考え過ぎてごちゃごちゃしてんじゃねえかなぁって思ってなァ。 一緒に整理していこうかと思って今日はここ来てんだよ」
「あの…錆兎……」 眠る時にはぎゅうっと抱き締められていて、目を覚ますとやはり抱き締められている。 錆兎自身の仕事は?食事は?睡眠は?と思うものの、それを聞くと 「そんなことはどうでもいい」 と答えられる。
一旦は実弥の村に立ち寄って、その後、隣村に行く予定で出発した一行ではあったが、その途中、一頭の馬が走ってきた。 その馬には見覚えのある少女が乗っている。 胡蝶しのぶ…村長の次女で、今中央地区の首都に留学中の長女は実弥と同い年の幼馴染だ。
一刻も早く状況を確認し、何か問題があるなら解決して家族を安心させてやりたい。 その一心で実弥は村長の家のドアを叩く。 ──おお、実弥が、覇王の孫が来たかっ! 実弥がついた時には自警団も半数くらいは集まっていて、腐っても覇王の孫として頼られている少年の姿に、大人たちは口々に歓迎の声...
(…あほらし……いつもみんな、人間そっちのけで軍隊なんてわけわからん集合体に振り回されていくんだよなぁ……)
義勇が西ライン軍、東ライン軍、そして自分の現状を理解したその日、大騒ぎになった。 どうやら発作を起こしたらしい。 気がつけば体中に色々な管が付けられていて、顔面蒼白の錆兎が顔を覗き込むようにしていた。
「はっああぁ?なんだそれっ???」 錆兎が部屋に着いた時にはすでに医師もナースもいて、何故か実弥までかけつけていて、ゴスっとこぶしを宇髄の腹にねじ込んでいるところだった。 まあ…ポーズだろうが…。 実弥が本気で殴っていたら、下手すれば宇髄の内臓が破裂している。