――…さび…と……?
小さな小さな声。
少し寝ぼけたようなその声に一気に肝が冷える。
襲撃者が銃を向けた先、眠っていたはずの義勇が目を覚ました。
しまったっ!!とほぞをかむ。
そして
ずきん…ずきんと痛む胸
(頼む…そのまままた眠ってしまってくれ……)
そんな錆兎の切実な祈りも叶わず、義勇は完全に目を覚ましてしまったらしい。
――え…?…
少し寝ぼけたようなその声に一気に肝が冷える。
襲撃者が銃を向けた先、眠っていたはずの義勇が目を覚ました。
しまったっ!!とほぞをかむ。
そして
ずきん…ずきんと痛む胸
(頼む…そのまままた眠ってしまってくれ……)
そんな錆兎の切実な祈りも叶わず、義勇は完全に目を覚ましてしまったらしい。
――え…?…
と小さく呟いて大きな丸い目をさらに大きく見開いて身を起こしかけたのを襲撃者が首元に手をかけて
「動くなっ!」
と乱暴にベッドに押さえつける。
「乱暴にするなっ!!」
と叫んだ錆兎が恐れたように、見る見る間に血の気を失う顔。
乱れる呼吸。
まずい…発作が……
長引けば長引くほど体力を奪うし、最悪そのまま死んでしまいかねない。
「早くっ!人質チェンジしろっ!
発作起こしてるっ!早くしないと死んでしまうっ!!!」
義勇にもしもの事があったらなんのために黙って自分の手を撃ち抜いたのかわからない。
…いや、そんな程度の事じゃない。
このまま死なせでもしたら、自分が産まれて生きて来た事自体がなんの意味もないどころか有害な事だった気すらしてくる。
家と病院を往復しながらただ穏やかに平和に生きて来たのだろう優しい命を踏みにじって摘み取ってしまうために生まれて来たというのなら、自分が生きている事自体、罪深すぎて呪う事しかできないじゃないか。
頼むから…助けさせてくれ。
血を吐くような錆兎の願いは、しかしながら叶えられなかった。
その眼前で、目を疑うような事が起こったのである。
――さびと…逃げて……
ひゅうひゅうと苦しそうな呼吸の中に紛れる小さな小さな…今にも消え入りそうな声…
どこにそんな力があったのか…
襲撃者の両手を細い手が掴む。
振りほどこうとする襲撃者
だが、力任せに振る襲撃者の腕に振り回されて細く小さな身体がまるで嵐に揺れる小枝のように振り回されるものの、しっかりつかんだその手は離れない。
と乱暴にベッドに押さえつける。
「乱暴にするなっ!!」
と叫んだ錆兎が恐れたように、見る見る間に血の気を失う顔。
乱れる呼吸。
まずい…発作が……
長引けば長引くほど体力を奪うし、最悪そのまま死んでしまいかねない。
「早くっ!人質チェンジしろっ!
発作起こしてるっ!早くしないと死んでしまうっ!!!」
義勇にもしもの事があったらなんのために黙って自分の手を撃ち抜いたのかわからない。
…いや、そんな程度の事じゃない。
このまま死なせでもしたら、自分が産まれて生きて来た事自体がなんの意味もないどころか有害な事だった気すらしてくる。
家と病院を往復しながらただ穏やかに平和に生きて来たのだろう優しい命を踏みにじって摘み取ってしまうために生まれて来たというのなら、自分が生きている事自体、罪深すぎて呪う事しかできないじゃないか。
頼むから…助けさせてくれ。
血を吐くような錆兎の願いは、しかしながら叶えられなかった。
その眼前で、目を疑うような事が起こったのである。
――さびと…逃げて……
ひゅうひゅうと苦しそうな呼吸の中に紛れる小さな小さな…今にも消え入りそうな声…
どこにそんな力があったのか…
襲撃者の両手を細い手が掴む。
振りほどこうとする襲撃者
だが、力任せに振る襲撃者の腕に振り回されて細く小さな身体がまるで嵐に揺れる小枝のように振り回されるものの、しっかりつかんだその手は離れない。
――…や…めて…くれ……もうやめてくれっ!!!!
駈け寄ろうとする錆兎。
叫び声と同時に二つの銃弾が発射される。
一つは襲撃者の銃
そしてそれよりわずかに早く錆兎の後方から撃たれた銃が襲撃者の銃を正確に射抜き、頭に向けられていたその矛先を肩口へと大きく反らせた。
それでもかすかに肩口をかすった弾丸が真っ赤に染める白いシーツ。
銃が完全に反れたところで後方から発射された2発目の弾丸が今度は襲撃者の頭を射抜く。
そこまでがまるでスローモーションのように行われた時、錆兎がようやく腕の中に取り戻した愛しい少年は血の気を失ったまま浅い呼吸を繰り返していた。
「…ぎゆ…う……ぎゆう…」
駈け寄ろうとする錆兎。
叫び声と同時に二つの銃弾が発射される。
一つは襲撃者の銃
そしてそれよりわずかに早く錆兎の後方から撃たれた銃が襲撃者の銃を正確に射抜き、頭に向けられていたその矛先を肩口へと大きく反らせた。
それでもかすかに肩口をかすった弾丸が真っ赤に染める白いシーツ。
銃が完全に反れたところで後方から発射された2発目の弾丸が今度は襲撃者の頭を射抜く。
そこまでがまるでスローモーションのように行われた時、錆兎がようやく腕の中に取り戻した愛しい少年は血の気を失ったまま浅い呼吸を繰り返していた。
「…ぎゆ…う……ぎゆう…」
頭の中が真っ白で言葉が出てこない。
弱々しい呼吸
生命が失われて行くような感触
それが恐ろしくて、生きている熱を確認するように撃ち抜いていない方の手でその柔らかな頬を撫でれば、義勇はゆっくりと目を開けた。
ぼんやりとしばらく焦点のさだまらない目
息苦しさで少し潤んでいるその綺麗な青い瞳は優しく錆兎に微笑みかける。
弱々しい呼吸
生命が失われて行くような感触
それが恐ろしくて、生きている熱を確認するように撃ち抜いていない方の手でその柔らかな頬を撫でれば、義勇はゆっくりと目を開けた。
ぼんやりとしばらく焦点のさだまらない目
息苦しさで少し潤んでいるその綺麗な青い瞳は優しく錆兎に微笑みかける。
…さびと…今までありがとう……
これで…ようやく……自由に…してあげられる…
これから…は…優しい相手を…みつけて、幸せに……
小さく紡がれる言葉…
ほとんど声にならない声…
本人にとっては祝福の言葉だったのであろうそれは、錆兎にとっては耐えがたいほど苦しい呪いの言葉だった。
――…いやだ…いやだ、ぎゆう、嫌だっ!!!!
義勇がいなくなる……
自分の側から永遠に……
そんな地獄の業火に焼かれるより辛い中で
この世の全ての希望が潰えた中でどうやって自分が幸せになれると言うのだ
絶対に何と引き換えても
例え自分の全て、自分の命と引き換えたとしても守りたかった
この世で唯一にして絶対の大切な存在…
それを失って幸せになんかなれるはずがないじゃないか
誰が愛しい義勇にそんな馬鹿な事を思わせたのだろう
自分が?
義勇が死んだ方が錆兎が幸せになれるなんてまったくあり得ない馬鹿な事を一体誰が思わせた?!
いやだ、いやだ、いやだ、いやだっ!!!!
泣きながら激しく首を振る錆兎の目から溢れ散る涙が義勇の頬を濡らすが、ゆっくりと閉じたままもう開かないその目。
「いやだっ!置いて行くなっ!!置いていかないでくれっ、お願いだからっぎゆう!!!」
必死に縋る錆兎の肩を襲撃者の死亡を確認したうずいが掴んだ。
「遅れて悪かった。
今医者呼んだから」
と、ちらりと担架に目をやって、暗に錆兎に義勇を離すように促す。
これで…ようやく……自由に…してあげられる…
これから…は…優しい相手を…みつけて、幸せに……
小さく紡がれる言葉…
ほとんど声にならない声…
本人にとっては祝福の言葉だったのであろうそれは、錆兎にとっては耐えがたいほど苦しい呪いの言葉だった。
――…いやだ…いやだ、ぎゆう、嫌だっ!!!!
義勇がいなくなる……
自分の側から永遠に……
そんな地獄の業火に焼かれるより辛い中で
この世の全ての希望が潰えた中でどうやって自分が幸せになれると言うのだ
絶対に何と引き換えても
例え自分の全て、自分の命と引き換えたとしても守りたかった
この世で唯一にして絶対の大切な存在…
それを失って幸せになんかなれるはずがないじゃないか
誰が愛しい義勇にそんな馬鹿な事を思わせたのだろう
自分が?
義勇が死んだ方が錆兎が幸せになれるなんてまったくあり得ない馬鹿な事を一体誰が思わせた?!
いやだ、いやだ、いやだ、いやだっ!!!!
泣きながら激しく首を振る錆兎の目から溢れ散る涙が義勇の頬を濡らすが、ゆっくりと閉じたままもう開かないその目。
「いやだっ!置いて行くなっ!!置いていかないでくれっ、お願いだからっぎゆう!!!」
必死に縋る錆兎の肩を襲撃者の死亡を確認したうずいが掴んだ。
「遅れて悪かった。
今医者呼んだから」
と、ちらりと担架に目をやって、暗に錆兎に義勇を離すように促す。
もう判断力も思考力もない。
ただ恐怖と悔恨で押しつぶされて固まっている錆兎から、それでも義勇を引きはがすと、宇髄は彼を担架に乗せて自らもその傍らに付添う。
茫然と固まる錆兎には実弥が寄りそい、その腕を掴んで立たせると宇髄に続いた。
「大丈夫…大丈夫だからなァ、錆兎」
と、慰めるように慈しむように声をかけ続ける実弥。
だがその声も錆兎には届かない。
――…ぎゆう……ぎゆ…う………
壊れたレコーダーのように繰り返す錆兎に、それでも実弥は声をかけ続けた。
優しく…宥めるようにずっと声をかけ続けたのだった。
ただ恐怖と悔恨で押しつぶされて固まっている錆兎から、それでも義勇を引きはがすと、宇髄は彼を担架に乗せて自らもその傍らに付添う。
茫然と固まる錆兎には実弥が寄りそい、その腕を掴んで立たせると宇髄に続いた。
「大丈夫…大丈夫だからなァ、錆兎」
と、慰めるように慈しむように声をかけ続ける実弥。
だがその声も錆兎には届かない。
――…ぎゆう……ぎゆ…う………
壊れたレコーダーのように繰り返す錆兎に、それでも実弥は声をかけ続けた。
優しく…宥めるようにずっと声をかけ続けたのだった。
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