不思議な事にそれで初めて側に人がいる事に気づく。
――…さび…と……?
義勇の部屋に来る相手なんて錆兎かその友人2人かで予定になく誰かが来る事はない。
だから消去法で今ここにいるのは錆兎なのだろうと義勇がゆるく目を開けると、まず目に入ってきたのは銀色の銃口。
そこで半分寝ぼけていた義勇は一気に目が覚めた。
「…え……」
と慌てて半身起こそうとすると、銃口を向けているのと反対側の手が伸びてきて首をガシっと掴んでそのままベッドに押し戻される。
締め付けられる形になった喉が苦しくて咳き込むと
「乱暴にするなっ!!!」
と悲鳴のような声が聞こえて声の方に目を向けて、そこに錆兎がいる事に初めて気づく。
こみ上げてくる息苦しさ。
視界が遠のきそうな中で錆兎が何か叫んでいるのが聞こえるが、内容はもうすでにわからない。
ただそこで目に入った赤いもの…血……
錆兎が怪我をしている……殺され…る?
おそらく襲撃者であろう男の片手は銃を掴んだまま義勇の喉元に添えられていて、もう片方は義勇の頭のあたりに向けられているのがわかった。
両方の手…二つの武器が自分の方を向いている…
錆兎の方に向けなければ…錆兎は逃げられる…助かる……
それは当然すぎる選択だった。
――さびと…逃げて……
最後の力を振り絞って力の入らない両手を叱咤して男の両手を掴んで言う。
すぐ男が振りほどこうとするが、振り払われないように必死に掴む。
男が腕を動かすと身体がグラグラと揺れ、胸の痛みは最高潮に達して呼吸も上手く出来なくなってきて意識が薄れて行くが、それでも掴んでいると肩口が熱く熱を持った。
ああ…終わった……
と、そこで身体の力が抜けた。
でもいい…きっと錆兎は逃げてくれただろう。
今まで迷惑をかけた分くらいはこれで返せただろうか…
寂しいけど悲しくはなかった。
だってこれで錆兎を幸せにしてあげられる。
自分がいなくなれば錆兎は彼に相応しい素敵な”大事な相手”を探せるし、きっと巡りあえるだろう…
…さびと…今までありがとう……
これで…ようやく……自由に…してあげられる…
これから…は…優しい相手を…みつけて、幸せに……
最後にそう心の中で呟いて、義勇は安らかな気分で静かに意識を手放した。
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