それは、このまま眼が覚めなければいいのに…なんて、そんなことで…
だって生きていると言う事は錆兎にただただ何か迷惑をかけ続けるという事だ。
義勇はベッドの中で小さくため息をついた。
本当に何を間違ってしまったのだろう…
最初にここに引き取られた時、素直に本当はスパイだと言ってしまえば良かったのだろうか。
いったん嘘をついてしまった今、もうそれを覆そうとしても信じてもらえない。
自分がいると迷惑になるからスパイだと嘘をついて離れようとしている…としかとってもらえなくなってしまった。
確かに何もかも整った環境の中、優しくされて暮らしていける事は幸せなのかもしれない。
が、それを普通に受け入れるには、あの優しい青年に迷惑をかけ過ぎている気がするのだ。
もともと人を1人養っていくというのはそれなりにお金のかかる事だし…
さらに義勇は病気で医療費もかかる。
それだけじゃない。
病気の人間を引き取ってしまったからには面倒を見なければ…と思うのだろう。
義勇が体調を崩すたび、錆兎は出来うる限り仕事を休んで看病をしさえするのだ。
どうせ拾うのでも普通の健康な人間を拾っていたら最低限の生活費で済むモノを、自分は錆兎からどれだけの物を奪っているのだろうと心が痛くなる。
だから…発作を起こすたび、義勇はブランケットを頭からかぶってジッとしている事にしていた。
少しでもそれが長く続く事で生命力を奪うように…。
それで少しでも死期が早まれば良い。
それだけ早く錆兎を自由にしてやれる…。
そう思って、少しの苦しさと共に緩やかな死を自ら招く。
病気が悪化して死んでしまうのは仕方のないことだから…
人道的に十分すぎるほど手を尽くしたが死んでしまった…
これだけしっかり医療を受けさせていて死んだなら仕方ない…
そう錆兎が思えるように…。
もちろんそれでも優しい男だから胸を痛めて一時的には嘆き悲しむかもしれない。
が、やがて実弥が言っていたところの《大切な相手》を見つけて幸せになってくれるに違いない。
ああ…そうなれば良いな…と義勇は思う。
誰か素敵な相手と一緒に微笑んでいる錆兎……
そんな未来の図を想像すると少しチクリと胸に痛みを覚えるが、それでもこのまま自分が彼の人生を食いつぶしてしまうよりはよほど良い。
今日も錆兎は優しかった。
偉い司令官なのだからとても忙しいのに、どうしても出なければならない会議に出たらすぐ義勇の部屋に駈けつけてくれた。
途中通った街中で見つけてくれた可愛いヌイグルミのお土産付きだ。
義勇が寂しくないように…との心遣いだろうか。
義勇のベッドの周りには錆兎に貰った大小様々なウサギのぬいぐるみが並べてある。
その中で一番のお気に入りはピンクの毛並みに赤いガラス玉の目のウサギ。
錆兎の髪と同じ色合い…秘かにビィ君と名付けているそのヌイグルミは、毎日抱きしめて眠っている。
いつか義勇が死んだら一緒に棺桶にいれてくれると嬉しいなと思っているが、それをどう伝えるかが義勇の目下の悩みだ。
死ぬ…などと言う言葉を口にすればまた錆兎がひどく心配して無理をするから、頼むに頼めない。
だからいつでもぎゅっと抱きしめている事にしている。
死ぬ瞬間も抱きしめていればきっと離れたくないのだと気づいてもらえるだろうから。
本当に一緒にいたい相手には離れたくないのだ…などと言える立場ではないのだから…。
いつものように最近ほぼベッドから起きられなくなった義勇のために外の色々な話をしてくれて、そして義勇のくだらない話を聞いてくれて、最後に一緒に食事をして錆兎は自分の部屋へと帰っていった。
義勇はもう寝るのだが、錆兎はこれから仕事だ。
義勇になんか時間を使わないですめば錆兎だってこんな時間から仕事を始めなくて済むのに申し訳ない。
本当に申し訳ないな…とは思うのだが、あともう少しだけ甘えさせてもらおうと義勇は口をつぐむ。
…あと少し…少しだから……
最近発作が増えて来た気がする。
たぶん病気は悪化しているのだと思う。
最近発作が増えて来た気がする。
たぶん病気は悪化しているのだと思う。
だから…おそらくそう長い期間錆兎を煩わせなくても良さそうだから、もう少しだけ……
――おやすみ
その言葉を口にする時は、錆兎は明日になったら
――おやすみ
その言葉を口にする時は、錆兎は明日になったら
――おはよう
と言うつもりで口にしていると思うのだが、義勇はいつもその
――おやすみ…
の言葉のあとに心の中で
――今までありがとう
と付け足している。
と言うつもりで口にしていると思うのだが、義勇はいつもその
――おやすみ…
の言葉のあとに心の中で
――今までありがとう
と付け足している。
このまま分かれて眠ったら明日は目を覚ます事なく
――おはよう
とかわす事はないかもしれないのだから。
いつもいつも永久の別れのつもりでかわす
――おやすみ
の言葉。
今日もやっぱり別れがたい気分で、それでもそれを口にした。
そうしていつものようにベッドの中で眠ったふりをして、眠った義勇を起こさないようにと錆兎がそっと閉めるドアの音を聞く。
日々その音を合図に完全に錆兎の気配がなくなるのを感じる。
ああ…会えるのはこれが最後かもしれない…
毎日そう思って心細さと寂しさに少し泣く。
その涙を吸い取るビィ君は、泣きはらした義勇の代わりに赤い目をして、黙って腕の中にいてくれる。
――おはよう
とかわす事はないかもしれないのだから。
いつもいつも永久の別れのつもりでかわす
――おやすみ
の言葉。
今日もやっぱり別れがたい気分で、それでもそれを口にした。
そうしていつものようにベッドの中で眠ったふりをして、眠った義勇を起こさないようにと錆兎がそっと閉めるドアの音を聞く。
日々その音を合図に完全に錆兎の気配がなくなるのを感じる。
ああ…会えるのはこれが最後かもしれない…
毎日そう思って心細さと寂しさに少し泣く。
その涙を吸い取るビィ君は、泣きはらした義勇の代わりに赤い目をして、黙って腕の中にいてくれる。
今日も一通りいつものようにそんな事があって、義勇はしかし思い出したようにベッドから身を起こした。
日中錆兎が会議に出ている間宇髄が来ていて色々な話をしていたのだが、その時にふと目が赤い事を指摘されて、
「義勇、よく寝られねえのか?」
と、それなら…と薬をもらったのだ。
薬は人によって効きやすい効きにくいがあるから、今日寝る前に必ず飲んで結果を教えてくれと言われていたのを思いだして、義勇は水差しからコップに水を注いでその淡い水色のカプセルをのみ込んだ。
そうして改めてブランケットのしたでビィ君を抱きしめていると、ゆるりゆるりと柔らかな眠気が襲ってくる。
薬が効いたのか、この体勢のせいなのか
それは義勇にはわからないが、せっかく訪れた穏やかな眠気に義勇は逆らわず身をまかせた。
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