契約軍人冨岡義勇の事情40完_エピローグ

――ぎゆう、調子に乗って走りすぎると病院に逆戻りだからなっ


中央ライン地域の北部。

もっと北に行けばのどかな農村地帯だが、北部でも中央に近い地域は大きな庭園や城の多い観光地である。

その一角にある薔薇園で有名な自然公園。
車を降りた少年は初めてみる広大な花園に目を輝かせて走り出した。

それを慌てて追うのは宍色の髪に藤色の目の青年。
2人は薬指にお揃いの指輪をしている。


そう、あれから1年。

あの事件から驚くほど容態が落ち着いて、錆兎の熱心な求婚で5カ月後に入籍。
その1カ月後にした手術は成功。

全て健常者と同様に…とはいかないものの、即命に別状がと言う事はなくなって、それでも大事を取って6カ月たった季節の良い日に、2人は少し遅い新婚旅行がてら、義勇が行きたがっていたライン地域の中央北部へと旅行に来ている。

もちろん2人きりというわけにはさすがに行かず、少し離れたところで護衛がてら見守りながらも自分達もまったり楽しむのは友人2人。

「義勇もすっかり元気になって良かったなァ」
と、しみじみ言う実弥。

「そりゃあ危ない橋渡ったしなっ」
と、それを受けて宇髄が楽しそうに笑う。

「んーでも杏寿郎の許可ありだったから大丈夫だったんじゃねえかァ?」
「そうだけど…あんまりおおやけになったら、まずいことだろ?」
「そうだけどよぉ…」

2人は1年前に想いを馳せた。



実際それは精密な計算と多大な協力者がいないと実現不可能な計画だった。

なにしろスパイを泳がせた上で上級将校の宿舎へ誘導などという無茶な計画だったのだから。

宇髄から計画を聞いた時実弥が出した条件は、総帥である杏寿郎の許可と協力を得る事であった。
それがないと下手すれば自分達だけではない。
義勇まで連座させる可能性もでてくる。
だから宇髄と2人、杏寿郎に事情説明をして協力を求めに行った。

目的は、義勇に自分が錆兎が生きて行くのに絶対不可欠な存在であると言う事を認めさせること。

もちろん杏寿郎にしても軍部全体に対しての責任もあるし、そんな無謀な計画をはいそうですかと許可はしてくれない。
そもそも杏寿郎自身だって義勇が錆兎に必要などと言う事を信じてはいないのだから。

居なくなったら錆兎も死んでしまうだろうと言うレベルで必要なのだと信じさせるのはもちろん容易ではない。

そこで実弥の出した条件は、義勇が死んだと思った状況で錆兎が立ち直れるような様なら、自身が入隊時に出した《錆兎の指揮下以外では作戦に参加しない》という条件の撤廃と、自分と宇髄の降格。

ハッキリ言って普通ならやってみるまでわからないようなものを認めてはもらえないが、そこは覇王のお孫様だ。

実弥が作戦に参加するというだけで味方の士気はあがり敵の士気は下がるというだけに、いつでも好きな時に出動させられるというのは、そのリスクに見合う条件といえる。

こうして作戦は開始された。



日中、宇髄が義勇に睡眠導入剤だから寝る前に飲むようにと念を押してカプセルで効果時間を遅くした仮死状態になる薬を渡す。

そして夜、まずスパイにさりげなく情報を流し、上級将校の宿舎の非常電源まで切らせて錆兎の部屋へと侵入させた。


義勇を人質にするのは計画通り。

そこで第一の選択。
目を覚ました義勇がどう行動するか…。

錆兎が義勇を助けようとするのは確実だが、義勇の方はどうだろうか…

明らかにスパイに協力するような様子を見せるようであれば、仮死状態から覚めた時点で錆兎に現実を突きつけなければならない。

そうでなければ作戦は続行だ。



結局目を覚ました義勇は錆兎を庇おうとする。
発作が起きるまでは目を瞑る。
が、本当に危険になる前に救出。

腕を少し銃弾がかすってしまったのは想定外だったが、まあ本当にかすり傷なので良しとした。

その後、カプセルが融けて薬が効いて義勇が死んだように見せかけた時に錆兎がどういう行動に出るか……
これを全て隠しカメラに収めて最終的に義勇に見せようと言うのが今回の行動の一番の趣旨だ。

こうして葬式までで終了。


棺桶の義勇に気を取られている間に錆兎に後ろから睡眠薬を投与。

その後、仮死状態から覚めた義勇に全てを見せて全てを説明して、錆兎には途中から夢を見ていたという事で納得させた。


案の定…というか、思った以上に錆兎が壊れていって内心少し心配にもなったが、自分が死んだら錆兎はここまで壊れるのだとわかったら、さすがに義勇でも自分がいなくても大丈夫とは思わないでくれるだろうと思った。

実際義勇も何故自分にそこまで価値があるのかわからないと言いながらも、壮絶に納得してくれたようで、めでたしめでたしだ。

ついでに…杏寿郎も途中ずっと壊れて行く錆兎を目の当たりにして蒼褪めていた。

理性的で何でも出来る自分の兄にも支えは必要なのだ…と、怯えながらも納得してくれたらしい。
今後義勇の保護に全力を尽くすと約束してくれた。


結局義勇が実際に記憶を失っているのか違うのか、草なのかどうなのかなど、諸々確認しようもないしわからないままなのだ。

が、どういう境遇であれギリギリの状況で錆兎の命を優先しようとするくらいには無害なのだし、杏寿郎の一声があればたいていの事は握りつぶせるので問題なしだと結論付けた。

そうして全てが解決した今、幸せそうな二人を遠目に見ながら実弥が口を開く


「結局な、体制とかそんなんどうでもいいんだよなァ。
大事なのは人それぞれの気持ちじゃね?
東の生まれでも西の生まれでも好きなんだったら一緒にいたらいいんだよォ。
規則守るために人間がいるわけじゃなくて、人間が幸せに暮らすために規則を作るんだからなァ。
俺は昔そんな姿勢の錆兎に救われたし、今逆に同じことを出来て満足してるぜ?
人を不幸にするような規則だったら投げ捨てちまえばいいんだよォ。
人間幸せになるために生きてるんだからなァ」

「うん。まあそうだよなぁ」


世の中は白と黒ではなくグレーで動いている。
理屈なんていつだってはっきり出来るものばかりではない。

それでも…青い空の下、幸せそうに笑う恋人達を見れば、それでも良いじゃないか…と、宇髄も実弥も思うのである。


人は幸せになるために生きている。

それが一番なのだから。

【完】





2 件のコメント :

  1. 修正漏れ報告です。さねみんが気を抜くと「いるわけやなくて」←関西弁風に…(;・∀・)

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    1. 毎度ご報告ありがとうございます。
      最後の最後まで誤字脱字王でした😅

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