契約軍人冨岡義勇の事情39_夢と目覚め

…と……さび……と


チュンチュンと小鳥のさえずりが聞こえる。

眩しい……


え??!!!




目を覚ました錆兎がガバっと身を起こすと、寝ていたらしいベッドの脇には見慣れた顔。


「あ~良かった~、おまえ倒れたまま二日も目を覚まさねえからさすがに俺も心配しちまったぜェ」

くしゃっと温かい笑みを浮かべる実弥。
その和やかな表情に錆兎は一瞬いまの状況がわからなくなって、しかしすぐに思い出した。


確か自分は義勇の葬式に出て……

「ぎゆうはっ?!!もう埋めてしまったのかっ?!!!」
ベッドから飛び出ると、実弥がびっくりしたように飛びずさる。


「え?埋めたって何を?!!
義勇なら隣の部屋だがぁ??」

きょとんとした目で言う実弥。


心底わけがわからないといった感じのその表情に、錆兎もわけがわからなくなって、自分の目で見た方が早いとばかりに続き部屋のドアを開けて隣の部屋へと飛び込んだ。



部屋に入ってまず目に入ったのはベッドの上。

相変わらず可愛らしい桃色の毛並みのウサギを抱きしめながら半身を起して宇髄とこちらも和やかな雰囲気の中で談笑している義勇。

まるで何事もなかったかのように…いや、よくよく見れば肩口に包帯が巻かれているようなので、何事かはあったのだろうが…



「……え…?」

突然ドアが開いて入ってきたかと思えばそのまま立ちすくむ錆兎に、中の2人は驚きの目を向けた。
3人が3様に固まっている中、最初に口を開いたのは義勇だった。


「錆兎、もう仕事は大丈夫なのか?」
と、当たり前に聞かれて、錆兎は口ごもった。

そこでようやく我に返ったように宇髄が駈け寄ってくる。


「錆兎、ちょい事後処理どうなったか聞かせてくれねえか?
あー実弥、義勇の様子みといてくれ」

と、そこで強引に錆兎を連れ出そうとするが、そこに生きて動いて話している義勇がいるのだ。
連れ出されてたまるかと、錆兎はそれを振り切って義勇に駆け寄った。



「…錆兎?どうしたんだ?」

きょとんと小首をかしげる義勇。
大きな丸いブルーの瞳が見あげてくるのを見て、涙があふれた。



――…生きてる……のか……

さきほどまでと今とどちらが夢なのかわからない。
でも…こうして生きている義勇と一緒に居られるならずっと夢の中でも構わないと思った。

傷に触らないようにそっと…それでもしっかりと義勇を抱きしめてその体温を感じると、心の奥底から温かいモノがこみあげてくる。



「…ぎゆう……頼むから…側にいてくれ…」
しゃくりをあげる錆兎を義勇がそっと抱きしめ返した。

「…心配かけてごめん……
でも…あの時は錆兎が殺されると思ったから…」
と、正確にとは言わないまでも錆兎が泣いている理由を断片的には理解しているらしく義勇が困ったように言う。


「俺は平気だから…
お前を守るためなら死んでも生き返るから…
だからもう二度と危ない真似はしないでくれ……」

半分本当で半分嘘。
死ぬ時は死ぬだろうが…それでも義勇に必要になれば、自分はたとえ死んでも幽霊になってでも助けにくるだろうと、それは本気で思う。

これは自分が生きている理由じゃない。存在している理由である。
生きていても死んでいても、自分は義勇を守るために存在しているのだ。
それは断言できる。

義勇を守る必要性がある限り、自分は死んでも自分の存在は消えないし、義勇がいなくなれば例え肉体が生命活動を続けていたとしても、自分の存在など消えてなくなったも同然なのだ。

錆兎は心の底からそう思った。




結局…その後思い切り義勇が生きて存在している事を確認して満足したあと、少し離れた部屋の隅で宇髄からこっそり説明を受けた。

侵入者に襲われて義勇が怪我をして処置室に運び込まれたところまでは現実。

実弥の銃が敵の銃口を大きくそらしたため義勇の怪我もほんのかすり傷で発作もすぐおさまったのだが、自分はどうやら義勇が処置室に運びこまれてドアが閉められたあたりで気を失っていたらしい。

そして…なんとその後まる2日意識を取り戻さなかったという。


もちろん義勇には心配をかけるし本当の事は言えない。

だから錆兎は侵入者があった事の事情説明や事後処理に追われていて忙しくて会いにこれないのだと伝えていたらしい。


つまり…義勇が処置室に入ったあとの事は全て夢だったということだ。
あまりにリアルすぎて錆兎としたら夢なんて思えないのだが……

でもまあいいいか…逆よりずっといい。
ぎゆうが生きてるならもう何でもいい…

心の底からそう思う。


もっとも…義勇の容態が好転しているわけではないので、手術ができるくらいに回復しないとあの全身が引きちぎられるような喪失感をまた味わう事になるわけなのだが……

でもそちらに関してはまだ時間はある。
努力はできる。
治してみせる。

あんなふうな絶望感にさいなまれる事になるくらいなら、自分にとってどれだけ義勇が大切でどれだけ義勇を必要としているか、毎日毎日わかってもらえるまで伝えるのだ。


まずは…早急に基地内の安全を確保、そして一緒にでかけるところから…と思っていたが、そんな悠長な事はしていられない。

もう…籍いれるか…

自分の人生にしっかりと刻み込まれて、いなくなったら人生が大きく欠けるのだ…とわかってもらうには、それが一番良い形かもしれない。


「なあ、宇髄、ちょっと宝飾品買いたいんだが、相談に乗ってくれ」

まずは形から…と、錆兎は指輪を購入するため、宇髄に声をかけた。


――給料3カ月分の指輪とか買いたいのだが……

そしてアドバイスをもらうのだ。


――買う事自体は無理…じゃないけどな、お前の給料のってことならよほどデカイ石とかついてんじゃないと無理だぜ?普段からはめるつもりなら、せめて1日分くらいにしておけよ。

…と。



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