その一心で実弥は村長の家のドアを叩く。
──おお、実弥が、覇王の孫が来たかっ!
実弥がついた時には自警団も半数くらいは集まっていて、腐っても覇王の孫として頼られている少年の姿に、大人たちは口々に歓迎の声をあげた。
村長の妻ですら
「今相談しようと誰かに呼びに行かせようと思っていたのよ」
と、そう言って、ホッとした様子でドアを開けて実弥を中に招き入れてくれる。
つまりは…やはりそこまでの事態だったわけだ。
事情を話したあと手当の甲斐なく亡くなった隣村の男の話によると、隣村が西ライン軍の兵に襲われていると言う。
おそらく正規の命令ではないのだろう。
現地で雇った無頼の輩を中心とした傭兵隊が待つだけの現状にしびれを切らして暴走しているらしい。
事情を話したあと手当の甲斐なく亡くなった隣村の男の話によると、隣村が西ライン軍の兵に襲われていると言う。
おそらく正規の命令ではないのだろう。
現地で雇った無頼の輩を中心とした傭兵隊が待つだけの現状にしびれを切らして暴走しているらしい。
至急助けを…と言う事だったらしいが、この村とて農民の集まりだ。
むしろ戦火がそのうちこちらに来る可能性すらある。
むしろ戦火がそのうちこちらに来る可能性すらある。
──でもうちの村には覇王の孫がいるからな
と、まるでそれがすべての困難を解決する伝説の武器のように言う村人たちと違って村長はさすがに冷静だ。
「実弥がいくら強かろうと一軍を一人で退けられるわけではない。
それより実弥でなければ出来ぬことがある」
と言う村長の言葉に、ざわざわと周りに不安が広がっていく。
その不安が恐慌になる前に、と、実弥は自分から口を開いた。
──俺が何をやれば村を救えるんだ?
と、まるでそれがすべての困難を解決する伝説の武器のように言う村人たちと違って村長はさすがに冷静だ。
「実弥がいくら強かろうと一軍を一人で退けられるわけではない。
それより実弥でなければ出来ぬことがある」
と言う村長の言葉に、ざわざわと周りに不安が広がっていく。
その不安が恐慌になる前に、と、実弥は自分から口を開いた。
──俺が何をやれば村を救えるんだ?
と言うと、村長は
──さすが覇王の孫。こんな時でも肝が据わっているな
──さすが覇王の孫。こんな時でも肝が据わっているな
と、目を細め、そんな風に落ち着いた様子の2人に、周りも村長と実弥が居れば何か窮地を乗り越える法があるのでは…と、落ち着きを取り戻した。
村長の考えはこうだった。
「うちの駿馬を貸す。
実弥はそれに乗って東ライン軍に救援を頼みに行け。
単なる村人が行っても相手にはされんだろうが、覇王の孫が行けば対応が違うだろう。
西ライン軍の暴走なら東ライン軍にとっても叩いておいて悪くはないと思ってもらえる可能性もある。
しかも依頼主が覇王の孫となれば、中立地帯でのことといってものちのちの免罪符になる」
なるほど。力では軍隊をまるまる相手にするのには限界があったとしても、”覇王の孫”という称号は無限の力になるという事か。
そうと決まれば急がねばならない。
村長の考えはこうだった。
「うちの駿馬を貸す。
実弥はそれに乗って東ライン軍に救援を頼みに行け。
単なる村人が行っても相手にはされんだろうが、覇王の孫が行けば対応が違うだろう。
西ライン軍の暴走なら東ライン軍にとっても叩いておいて悪くはないと思ってもらえる可能性もある。
しかも依頼主が覇王の孫となれば、中立地帯でのことといってものちのちの免罪符になる」
なるほど。力では軍隊をまるまる相手にするのには限界があったとしても、”覇王の孫”という称号は無限の力になるという事か。
そうと決まれば急がねばならない。
敵はもう隣村まで来ているのだ。
こうして実弥は村を出た。
途中西ライン軍の兵らしき輩に出くわしたりもしたが、納屋から引っ張り出してきた祖父の刀で血祭りに上げ、一路東の国境へと急ぐ。
丸1日ひたすら馬を駆り、国境の東ライン軍の基地にたどりついたのは、翌日の夕方の事だった。
それは最果ての地の砦のわりにそこそこ立派な建物で
「すまねえっ、近くの村から来たんだがっ!」
と、礼儀などそっちのけで衛兵に声をかけた実弥は、即不審者として武器を持った兵士達に囲まれた。
まあ…確かに血まみれの刀を背負い返り血にまみれた状態で声をかけられたら大抵の者はビビる。
何事かと思う。
しかし実弥は村の外の人間との交流を持った事がなかったし、村人はどんな状態でも実弥が何者か知っていたため、たとえ同じ状況だったとしても警戒される事はない。
だからいきなり武器を持った兵士に囲まれた実弥が自分の方もそれを非常事態と警戒して武器に手をかけたのは当然の成り行きだった。
「なんで武器向けるんだァ?お前らも西ライン軍と一緒なのかよっ?!」
わけがわからず訴える実弥だが、それは東ライン軍の人間には禁句である。
「貴様っ!!なんてことをっ!!!」
と更に殺気立つ兵士達。
もう助けてもらうどころではない。
自分の方が捕獲、投獄されそうな状況で、実弥はわけもわからず焦った。
こうして実弥は村を出た。
途中西ライン軍の兵らしき輩に出くわしたりもしたが、納屋から引っ張り出してきた祖父の刀で血祭りに上げ、一路東の国境へと急ぐ。
丸1日ひたすら馬を駆り、国境の東ライン軍の基地にたどりついたのは、翌日の夕方の事だった。
それは最果ての地の砦のわりにそこそこ立派な建物で
「すまねえっ、近くの村から来たんだがっ!」
と、礼儀などそっちのけで衛兵に声をかけた実弥は、即不審者として武器を持った兵士達に囲まれた。
まあ…確かに血まみれの刀を背負い返り血にまみれた状態で声をかけられたら大抵の者はビビる。
何事かと思う。
しかし実弥は村の外の人間との交流を持った事がなかったし、村人はどんな状態でも実弥が何者か知っていたため、たとえ同じ状況だったとしても警戒される事はない。
だからいきなり武器を持った兵士に囲まれた実弥が自分の方もそれを非常事態と警戒して武器に手をかけたのは当然の成り行きだった。
「なんで武器向けるんだァ?お前らも西ライン軍と一緒なのかよっ?!」
わけがわからず訴える実弥だが、それは東ライン軍の人間には禁句である。
「貴様っ!!なんてことをっ!!!」
と更に殺気立つ兵士達。
もう助けてもらうどころではない。
自分の方が捕獲、投獄されそうな状況で、実弥はわけもわからず焦った。
もうピクリとでも動いたら一気に戦闘突入かというところまで事態が切迫した時、突然
「よし、そこでストップな。双方武器しまえ」
と、黒い塊が実弥と兵士達の間に飛び込んできた。
「お前達の武器は、一般人に向けるためのものじゃないはずだぞ」
と、実弥に向いた兵士の刃先をピンと弾いたと思うと、
「お前もとりあえず返り血だらけの武器を抱えた人間が目の前に現れたら普通の人間は警戒するって事は知っておけ」
と、実弥の手をとって刀を降ろさせたのは、驚いた事に実弥と同じくらいの若さの少年だった。
鮮やかな宍色の髪。
そして特徴的なのはこちらも珍しい藤色の瞳。
随分と整った容姿の少年ではあったが、動きに無駄なく立ち振る舞いに隙がない。
「よし、そこでストップな。双方武器しまえ」
と、黒い塊が実弥と兵士達の間に飛び込んできた。
「お前達の武器は、一般人に向けるためのものじゃないはずだぞ」
と、実弥に向いた兵士の刃先をピンと弾いたと思うと、
「お前もとりあえず返り血だらけの武器を抱えた人間が目の前に現れたら普通の人間は警戒するって事は知っておけ」
と、実弥の手をとって刀を降ろさせたのは、驚いた事に実弥と同じくらいの若さの少年だった。
鮮やかな宍色の髪。
そして特徴的なのはこちらも珍しい藤色の瞳。
随分と整った容姿の少年ではあったが、動きに無駄なく立ち振る舞いに隙がない。
それでも実弥の勘が相手は敵意がないと言う事を告げてきたので、実弥は大人しく少年に従った。
「閣下っ!」
と、それでも実弥のすぐ側にいる少年に見張りの兵士は焦ったような目を向けるが、少年はにこっと笑って
「あ~大丈夫だ。こいつに敵意はない。
たぶんこいつはお前達が束になっても敵わない達人だぞ。
その気になればお前達は一瞬で斬り殺されていた。
それをやってないということは、はなから敵対しようと思ってはいないのだろう。
つまりお前達が武器向けたから自衛で武器向けただけだ」
と、まさに実弥の今の状況を言い当てただけでなく、その後実弥から事情を聞いて、中立地域への兵の派遣は法で禁じられているという重臣たちに
「法というのは軍のためにあるわけじゃなく、人のためにあるんだ。
何も領土拡大するわけではない。
単にそこに助けてくれという相手がいるから、手が空いてる人間が助けに行くだけだ。
そこにどこの所属だとかは関係ない。
親父が何か言ってきたなら俺が責任をとる。
基地護衛の任についている奴以外はさっさと支度しろ。
盗賊に襲われてる現地の村人救うだけの人道的支援だ」
と、自ら武装し始めた。
実弥は当時知らなかったが、丁度地方の視察に来ていた総帥の息子様ということで、それに怪我でもさせたら降格どころの話じゃない。
下手をすれば首が飛ぶ。
ゆえに仕方なしに他の兵たちも少年錆兎に従って村の救助に行くために支度を始めたのだった。
これが実弥と錆兎の出会いである。
「閣下っ!」
と、それでも実弥のすぐ側にいる少年に見張りの兵士は焦ったような目を向けるが、少年はにこっと笑って
「あ~大丈夫だ。こいつに敵意はない。
たぶんこいつはお前達が束になっても敵わない達人だぞ。
その気になればお前達は一瞬で斬り殺されていた。
それをやってないということは、はなから敵対しようと思ってはいないのだろう。
つまりお前達が武器向けたから自衛で武器向けただけだ」
と、まさに実弥の今の状況を言い当てただけでなく、その後実弥から事情を聞いて、中立地域への兵の派遣は法で禁じられているという重臣たちに
「法というのは軍のためにあるわけじゃなく、人のためにあるんだ。
何も領土拡大するわけではない。
単にそこに助けてくれという相手がいるから、手が空いてる人間が助けに行くだけだ。
そこにどこの所属だとかは関係ない。
親父が何か言ってきたなら俺が責任をとる。
基地護衛の任についている奴以外はさっさと支度しろ。
盗賊に襲われてる現地の村人救うだけの人道的支援だ」
と、自ら武装し始めた。
実弥は当時知らなかったが、丁度地方の視察に来ていた総帥の息子様ということで、それに怪我でもさせたら降格どころの話じゃない。
下手をすれば首が飛ぶ。
ゆえに仕方なしに他の兵たちも少年錆兎に従って村の救助に行くために支度を始めたのだった。
これが実弥と錆兎の出会いである。
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誤字というか直し漏れ?「黒い塊がアントーニョと兵士達の間に飛び込んできた。」恐らく錆兎にあたる黒い塊と実弥にあたるアントーニョ部分(;^ω^)ご確認お願いします。
返信削除ご指摘ありがとうございます。
削除修正しました😄