錆兎が部屋に着いた時にはすでに医師もナースもいて、何故か実弥までかけつけていて、ゴスっとこぶしを宇髄の腹にねじ込んでいるところだった。
まあ…ポーズだろうが…。
実弥が本気で殴っていたら、下手すれば宇髄の内臓が破裂している。
そんな実弥から事情を聞いてみれば、義勇に錆兎が忙しそうだと言われた宇髄が今日の会議の事を話したら、義勇が見る見る間に真っ青になって発作を起こしたそうだ。
そしてその理由が……
「なんかなぁ、自分がもしスパイだったら錆兎に迷惑かかるんじゃねえかって思ったかららしいぜぇ?」
一瞬意味がわからなかった。
その発想はどこからくる?
本当にわけのわからなさに硬直したままの錆兎に、宇髄が言う。
「つまりな、こういう事だと思うんだけどな?
ほら、義勇記憶ないだろ?
だから自分がスパイじゃないと断言もできねえし、万が一スパイだったら…と」
「ありえんだろおぉぉ~~~!!!!」
と、叫んだ錆兎はおかしくないと思う。
いやいや、どこの世界にこんな虚弱なスパイがいるんだ?と声を大にして言いたい。
…というか、言った。
「そうだよなぁ…まず体直してしまわねえと、そんなストレス抱えてたらそれで死んじまうんじゃね?」
と、心の底からNOUKINな実働部隊の実弥が思わず同意するくらいにはありえないと思う。
「だよな……」
と、肩を落とす錆兎。
西ライン軍のスパイがこんなに可愛らしいようなものだというなら、実弥ではないが西ライン軍を潰して育成施設でも作ってやりたいくらいだ。
しかし残念ながら実際に今現在捕まっている西ラインのスパイは良くて色っぽいお姉さんで、悪ければ極々普通の成人男である。
とにかく…意識が戻り次第、もう一度義勇には義勇の設定を言い聞かせてやらねばならない。
中央北部出身で祖父と母と3人暮らし。
父親は義勇が生まれる前に事故死。
当時5歳の錆兎が伯父が留守中に預けられた先が隣の義勇の家で、義勇の事は母親の腹の中にいる時から知っている。
錆兎が6歳の時に義勇が生まれ、それから父親の元に引き取られる9歳までの3年間は兄弟のようにして育ち、その後も錆兎は定期的に里帰り。
数年後、祖父、母親と亡くなって、1人になった義勇を中央地帯の病院に入院&治療をさせていた。
義勇から聞いた生い立ちと自分の生い立ちを組み合わせるとこんな感じだろう。
幸いにして錆兎が足しげく中央地域へ通っていた事は友人達も弟の杏寿郎も知っていて証明してくれる。
義勇が記憶を取り戻さない限りは、誰からも疑問を抱かれる事はない。
よし、完璧だ!
脳内でそれだけをまとめて錆兎は頷く。
あとは義勇の記憶が戻って錆兎の嘘を知って、変に責任を感じて落ち込まないでくれる事を祈るばかりだ。
もう一度悪友達の誤解を事実として受け入れた時点で錆兎の腹は決まったのだ。
義勇を色々なモノから守る。
それが自分の最優先事項なのである。
それより大切なことは既に錆兎の中には存在しなかった。
それが自分の最優先事項なのである。
それより大切なことは既に錆兎の中には存在しなかった。
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