ロズプリ
ラストのセットはローズ・プリンス・オペラ・スクールの中庭をモデルにしている。 その中庭で普通に制服を着て、小さな歌声を響かせるアーサー。 それをちょうどフランシスとギルベルトと共に廊下を通りがかったアントーニョが聞きとがめてそちらを振り返る。
（早く…王子…早く…） 息を引き取る直前の姫の病床で、王子がこちらへ向かうとクラウスから連絡を受けたフェリシアーノ演じるマーガレットが祈るように手を合わせる。
――脚本（ほん）だけ見るとベタだなぁって思うんですが、キャストの人間関係や性格が妙にはまっていて、すごく引きずり込まれちゃいますねぇ…。
第2幕はカルロスの父、シャイニーズサンの王の心変わりから始まる。 王は王子を呼び、婚約者の変更を申し渡す。 それはなんのことはない、アイリーンの国シスターズムーンより重要な国ができた、そちらの国とより強い関係を結びたい、それだけだ。
「お疲れ様です。次の着替え急ぎましょう。」 と、舞台から降りて、すでに着替えを手にスタンバっているキクの方へと足を向けかけたアーサーは、いきなり後ろから伸びてきた手に腕を掴まれ、グイッと引っ張られて後ろに倒れかけた。
世界中の時間が一瞬止まってしまったような衝撃… 主人公であるシャイニーズサンの王子カルロスがアイリーンを一目見た時の感情は、こちらも想像で演じるまでもなく、アントーニョは体験済みだ。
そんなこんなで、それでも舞台衣装である淡いグリーンのドレスを身に付けると、化粧を施されてカツラをかぶる。
「…ごめん…キク…」 楽屋前でアントーニョと分かれて中に入ると、アーサーが来たらすぐに身につけられるようにと衣装を用意していたキクが目を丸くした。
「「お前なぁ（ねえ）……」」 午後一の本番を控えて、アントーニョが朝からアーサーを連れて楽屋入りをしたところを、悪友二人が見咎めると、ギルベルトは腰に両手を当ててうつむき、フランシスは片手を額にやって空を仰ぎ、同じようにため息をついた。
外見があれなのだから、せめて…演技だけでも完璧なモノにしなくては…。 アントーニョと二人で住む離れに帰ってもリビングのソファで台本を繰り返し熟読していると、スイっと上から手が伸びてきて、台本が取り上げられた。 「……あっ………」 空に浮いた手をそのままに上を見上げると、...
不安と安心 「え～？それはないよぉ。」 一緒に入ってきたフランシスがアントーニョによって穏便に…たとえそれが ――ああ？おのれは何アーティの着替え中にのぞきに来とるん？自分、明日の舞台に欠員出したらまずいから、親分が手ぇあげられへんとか思ってええ気になっとるんちゃ...
「っ！！」 稽古場から廊下にでて、可愛いあの子はどうしてるだろうか…と気にかけた瞬間、通じあっている宝玉を通して、愛しい対が沈んだ気持ちでいる事を感じれば、もうそこからはダッシュだ。
「あ～、なんでこんな糞ヒゲと一緒に着替えなあかんねん」 愛しの対と引き離され、フランシスと二人、控室で衣装に着替えさせられて、アントーニョは至極機嫌が悪い。
太陽の昂揚 宝玉に選ばれて舞台で主役を演じ始めて早1年。 その間かなりの数の舞台をこなしてはきたのだが、今回の舞台ほど心踊る舞台はいまだかつてない。
ヒロインの憂鬱 明日の舞台を前に最終的な衣装合わせ。 淡いグリーンのドレスは確かに可愛らしいし、別にキツくはない。 なのにフェリシアーノに比べると今ひとつ可憐さに欠けると思う。
お兄さんの葛藤 ――と…にょ……やだ…… ――やだやないわ。そんなに締め付けたらしんどいの自分やで？少し緩め？ ――やっ！やだっ！ホントにやだぁっ！！ 室内から聞こえる若干乱れたアントーニョの声とアーサーの苦しそうな涙声。
プロローグ 【 ローズ・プリンス・オペラ・スクール 】通称ロープリ。 それは演劇を通して自己表現法を身につけ、その後の社会生活をより豊かなモノにしようという方針のもと、普通の授業の他に演劇に力を入れていて、定期的に公演会を開くという、一風変わった学校である。 普通の...
太陽は燃えるのか翳るのか… 使いを出して数時間後…ローズ・プリンス・オペラ・スクールの理事長室に姿を現したその大男はひどい顔色をしていた。 普段から仮面で顔を隠しているような男だが、その仮面の上からでも十分に憔悴ぶりが伺える。
旅路 おそらく自分だけ残されるフランシスもヒーローを自称するアルフレッドも納得しないだろう…そんな事もあって、出発は明日の早朝になった。 学校を出て少し行った空き地に集合で、ローマ、ギルベルト、サディクと順に来て、最後にアントーニョとアーサーが姿を見せる。
共にあるもの 「ギルちゃんアホちゃう？」 理事長の意向をアントーニョに伝えた時の第一声だ。 にべもない返事ではあるが、激怒されなかっただけまだマシなのだろうか…。
