ローズ・プリンス・オペラ・スクール第十二章_4完

旅路


おそらく自分だけ残されるフランシスもヒーローを自称するアルフレッドも納得しないだろう…そんな事もあって、出発は明日の早朝になった。
学校を出て少し行った空き地に集合で、ローマ、ギルベルト、サディクと順に来て、最後にアントーニョとアーサーが姿を見せる。

「ああ、可愛らしいお姫ちゃんだな。
まあおっちゃんがまず突っ込んでくから、ちゃんと守ってやれよ?坊主。」

おそらく現在もうほぼいない太陽と月のペア。

――この坊主とお姫ちゃんだけは返してやんねえと…なぁ?桔梗さん

サディクは今はもういない…これから向かう魔界に眠る最愛の対に心の中で語りかける。
それには…魔王を倒す役は自分が引き受けて、ギリギリの所で彼らは返してやらねばならない。
倒した瞬間始まるかもしれない魔界の崩壊に巻き込まれないように……。


「お前さんは…全体の時期を見てくれ」

次にサディクは理事長であるローマがどうやら今一目置いているらしい青年の肩に手を置く。

「私情でわりいけどよ、俺は自分が対失くしちまったからよ、対を失くして暴走して死ぬ太陽も、守ってくれる奴がいなくなって危険に晒される月も見たくねえんだ。
二人を無事返してやりてえ。
桔梗さんの敵を取る…そんな理由だけで命投げ出したらあの世で桔梗さんに激怒されそうだが、そんな理由なら優しい人だったから、納得してくれそうだしよ。
それが今回の俺のモチベーションなんだ。
だから撤退させるタイミング、くれぐれも宜しくな。」

青年にだけ聞こえるくらいの小声でそう伝えると、青年は少しつらそうに唇を噛み締めたあと、それでも
「ああ、任せてくれ」
と頷いた。

「可能な限り全員脱出できる術を探ってみるけど、もしダメなら最悪二人だけでも脱出させる。」

その言葉にサディクは小さく笑った。

「ああ、前言撤回だ。お前さんも絶対に死ぬなよ?
頭いいだけじゃなく、賢明で前向きな若者なんざ、昨今なかなかいやしねえ。
ローマの爺さんをせいぜい助けてやんな。」

そう言ってくしゃくしゃと頭を撫でる手は大きく温かい。
ローマもそうだが、どこか人を安心させるような…頼りたくなるような雰囲気がある。

「あんたも…生き残れよ。
でないとあのバカ、ローマ理事長だけじゃ教育しきれねえし…。
教育してやれる太陽がもういねえんだろ?」

死なせたくない…と、ギルベルトは思った。

「だいたい死ぬこと前提で策たてて良い事なんざこれっぽちもねえ。
生きること…それを前提に策をたてねえと、死ねばすむなんて思って計画たててたら、生き残れるモンも残れねえよ。」

「ははっ。違いねえ」

お前賢いな、と、また子どもを褒めるような口調でクシャクシャ髪をかき混ぜられながら言われたが、反発心は起こらない。

ただ、自分がまだ未熟な子どもである…それがこの温かい太陽を少しでも生に繋ぎ止める要因になってくれればいいと思った。

そんな会話を交しているうちに、ローマがルッツを促してゲートを開かせる。

「んじゃ、いってきまさ」
と、まずサディクが飛び込んで、

「アーティ、絶対に親分から離れたらあかんよ?」
「…うん…わかってる…」
と、しっかりとアーサーを抱え込んだアントーニョが飛び込む。

そして…

「じゃ、みんなを頼んだぞ。
それぞれに暴走するかもしれねえ爆弾抱えてる奴らだから、お前だけが頼りだ。」
と、ローマに言われてギルベルトが苦笑交じりにうなづいて飛び込んで、最後に黒鷲の姿のルートがパサパサとその後を追おうとした時……

「待ってぇ!!!」
と、遠くから転がるように茶色の髪の少年が駆け寄ってきた。

「フェリ、なんでここを?」
と、目を丸くする祖父の問いには答えず、フェリシアーノはルッツに手を伸ばす。

「行っちゃうって…なんとなくそんな気がしたんだ。
俺…着いて行っても足手まといなのはわかるから…待ってるからね。
美味しいごちそうとかいっぱい作って待ってるからっ。
俺料理得意なんだよ?ルート知らなかったでしょ。
戻ってきたら俺の事いっぱいいっぱい教えるからっ…。
だからまた戻ってきたら一緒にいようねっ。」

パサパサと飛んできて自分の腕に止まる黒鷲に泣きながら頬ずりをすると、黒鷲は応えるように頭をその柔らかな頬にすりつけて、それからゲートの中へと消えて行った。

「待ってるからねっ!美味しいお菓子いっぱい作って待ってるから、また会おうねっ!!」
そんなフェリシアーノの叫びを飲み込んで、ゲートは薄れてやがて見えなくなる。


「…戻ってくるよね…爺ちゃん…」
ポロポロ泣く孫にローマは苦笑する。
「そう思うんなら泣くな。なく必要はねえだろ?」
「…うん…俺…ルートのこと信じてるし…魔でもいいんだ。ルートならなんでもいいんだ。」
「お前…知ってたのか?」
学校の方に並んで歩きながら言う孫の言葉に目を丸くするローマ。
それにフェリシアーノは当たり前に答える。
「なんとなく?でもね、ルートはいいやつだよ?俺わかるんだ。」
そういうフェリシアーノの目に迷いはない。
「ああ、そうだな。」
そう答えるローマの気持ちにも嘘偽りはなかった。
魔の属性を持つ対の忘れ形見とまるで世の中の醜い部分の影響を一切受けていないかのような天使のような孫…。
もしかしたらその間にも適応者同士の絆と似たような何かがあるのかもしれない……。

――お前が戻ってこねえと永遠にわかんねえんだから、絶対に帰ってこいよ…

ローマはゲートの向こうに消えていった黒鷲に心の中でそうつぶやくと、適応者の半分が不在の学校へと戻っていった。



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