不安と安心
「え~?それはないよぉ。」
一緒に入ってきたフランシスがアントーニョによって穏便に…たとえそれが
――ああ?おのれは何アーティの着替え中にのぞきに来とるん?自分、明日の舞台に欠員出したらまずいから、親分が手ぇあげられへんとか思ってええ気になっとるんちゃう?――
と、実に背筋が凍りつくような笑顔で凄まれた結果だとしても……
追い出された後、いまだ衣装を身につけていない事情を聞かれ、アーサーが理由とコルセットの攻防を説明すると、フェリシアーノは苦笑した。
「だって、ほら、これが俺のウェストのサイズね。
全然余るでしょ?」
と、フェリシアーノはくるりとそのあたりにあった紐で自分のウェストのサイズを測り、それをアーサーに巻きつけてみせる。
「ドレスの生地分の誤差はあったとしてもさ、どう見てもアーサーの方が細いよ?」
「でも…ドレス着てみたら、どう見てもフェリシアーノの方が細く見える。」
確かに余裕のある紐に渋々事実と認めながらも、納得出来ないようにつぶやくアーサーに、フェリシアーノが
「とにかく一度着てみてよ」
と、自分も手伝ってアーサーにドレスを着させた。
そして一言。
「あ~、これだね、そう思うのは。」
「これ?」
「うん。俺の方が胸のパット大きいから。
だから胸と腰の差があるからアーサーには細く見えるんじゃない?
でもこれは仕方ないよ。そういう役だもん。」
フェリシアーノの演じる快活で男性ともそれなりにお付き合いをしているマーガレットと、アーサーの演じる内気で人見知りなアイリーン。
双方の特徴を出すために、衣装で体型を変えているのだ。
「でも凹凸が少ないだけで、太くは見えないよ?」
「そうやで。細っこくて華奢でめっちゃ守ったりたい感じやん。」
「でも……」
結局二人にそう言われて押し切られて、時間もないことだしと3人で稽古場に急ぐ。
モヤモヤとした気持ちもいったん稽古に入ってしまえば、初舞台で色々考えこむ余裕もなく、淡々と過ぎていく。
ただ、数多くの舞台を仕切ってきたせいだろうか…
理事長にはどことなく迷いを見ぬかれていたようで、
「アーサー、なんかノッてないな。明日までにはなんとかしとけよ。」
と、最後に声をかけられた。
ああ…もう駄目だ…。
「おっちゃん、無神経な事言わんといてっ!!」
と、かばうようにガ~っと噛み付くアントーニョに申し訳なさすぎて涙が出てきた。
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