ローズ・プリンス・オペラ・スクール・ねくすと前編_3

ヒロインの憂鬱


明日の舞台を前に最終的な衣装合わせ。
淡いグリーンのドレスは確かに可愛らしいし、別にキツくはない。
なのにフェリシアーノに比べると今ひとつ可憐さに欠けると思う。

腰の細さが原因なんじゃないだろうか…と、ヒロイン役である自分の親友の貴族の娘役で、本当の少女のように可愛らしかったフェリシアーノのドレス姿を思い出して、アーサーはため息をついた。

ヒロインより脇役の方が可愛らしい…ああ、駄目だ…どうしよう…。

自分が…という以前に、大スターである相手役のアントーニョに対して申し訳なさすぎて泣きそうだ。


有名な歌劇団、ローズ・プリンス・オペラで何度も主役を張っている人気俳優、アントーニョ・ヘルナンデス・カリエド。

男らしく日に焼けた肌、精悍な中にも甘さを含んだ整った顔立ち、決してムキムキではないが、しっかり筋肉のついた均整の取れた体躯。

そんな美丈夫が朗々と素晴らしく男らしくも美しい声で紡ぐセリフや歌の数々。

ロープリの中等部に通う頃、初めて舞台を観に行った時、主役の親友役を演じていた彼を一目見た瞬間に惹かれてファンになった。

それ以来、彼が出るロープリのチケットは万難を排して手に入れ、劇場に通い詰める事1年間。
そんな大スターと同じ学校に上がれる事になったのだ。

もしかしたら学校で遠目にでも見られるかもしれない…そんな淡い期待をして高等部にあがった初日…なんと、いきなり出会って、いきなり太陽の宝玉の適応者である彼の対であると言われて、そのまま彼が特別に与えられている離れに連れて行かれて、そのまま何故かずっと世話になることになった。

実際に彼の言うとおり太陽の対である月の石に選ばれてからは、毎日朝から晩までドロドロに甘やかされて、何もかもやってもらっている気がする…いや、気がするじゃない、確かに実際してもらっている。

石が選んだパートナーでこれから嫌でも一緒にやっていかないとなので、気を使ってくれているのか、何をやっても何が出来なくても、アントーニョはあの世界中が憧れる笑顔を大盤振る舞いで、可愛い可愛いと甘やかしてくれてはいるが、自分のような何の取り柄もないどころか、可愛げも愛想もない人間相手に、いい加減いやになるんだろうか…と、日々不安なのである。

そこにこれだ。
ああ、もう少しダイエットでもすれば良かったんだろうか…。
少女っぽい可憐さがどうしても足りない。

アーサーはコルセットをさらにきつく締め直すべく、一旦衣装を脱いだ。

そんな所にいきなりドアが開いたかと思えば、今までまさに考えていた人物が顔を出す。

すでに舞台衣装を華麗に着こなしたその姿に、ファンとして心が踊り、次の瞬間、相手の目に当然入っているであろう自分の貧弱な体躯を思って慌てて身を隠すように脱いだばかりのドレスを抱きしめてうなだれた。





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