その中庭で普通に制服を着て、小さな歌声を響かせるアーサー。
それをちょうどフランシスとギルベルトと共に廊下を通りがかったアントーニョが聞きとがめてそちらを振り返る。
驚きに固まる表情。
友人二人を置いて、中庭に走り出していく。
「お姫さんっ!!」
「…えっ?」
驚くアーサーの腕をつかんで抱き寄せる。
「また出会えるまでめっちゃ長い事待ったんやでっ。
もう離さへん。
ずっと一緒にいたってや。」
平和な世界。
柔らかな日差しの中、泣きそうに笑ってそう言って、深く口付けたところで、盛大な拍手と共に舞台の幕がおりた。
「お…終わったぁ…」
幕がおりても抱きしめられたまま、アーサーがホッとしたようにつぶやく。
割れるような拍手を聞いている限りは舞台は成功といえるのではないだろうか…。
しかし息をつく暇もなく、出演者全員による最後の挨拶がある。
素の顔に芝居用の笑みを戻して、やまない拍手の中再度幕があがると、観客席に向かって礼をする。
つい1年前まで観客席の側でこの舞台を見ていたことを考えると、今こうして憧れのスターの隣にいるのが嘘みたいだ。
そんなアーサーの感想とは裏腹に、その後のレセプションではしっかりと名優の一人として扱われ、ひどく動揺するが、その傍らではアントーニョが片時もはなれずエスコートしている。
ロープリでは主役を演じる役者は特定の相手役を持ち、その相手役とは公私共々一緒にいるというのが通常であるということは周知の事実で、その場で正式にアントーニョのパートナーであると紹介されたため、最後のシーンがロープリをモデルにしていたこともあって、一部の夢見がちな女性達の間では、今回の芝居は実際に二人の間で起こった事であるという噂がまことしやかに流れたりもした。
そんなわけで、今回の舞台はアントーニョとアーサーの代表作として語り継がれることになる。
こうして大成功を迎えた華やかな表舞台…。
しかし名が売れたことによって、裏の世界で暗躍する闇の目にも止まることになり、様々な陰謀に巻き込まれていくことになるのは、また後の話である。
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