kmt 世界を敵に回しても
──冨岡ァ~!また汚ねぇ食い方しやがってっ!! 賑やかな店内でもひときわ大きく響き渡る怒鳴り声。 笑顔が瞬時に消えてぴゃっとすくみあがる義勇。 あ~!まじか、このタイミング?と苦い顔をする宇髄がおそるおそる錆兎をうかがう。
錆兎に指定された場所は例のバイキングレストランだった。 会議の時には同期同士積もる話もあるだろうからと、午前中は11時まで。 昼の休憩は2時間で午後13時から始まる代わりに、帰りはいつもよりも1時間遅くなる。 なので社内で話をするなら好都合だ。
──…鱗滝って…冨岡のこといつから名前で呼んでたんだ? 朝食時にバイキングレストランで錆兎と義勇が朝食を摂っていた。 それに乱入しようとして追い返されてきた不死川の宇髄に対する第一声がそれである。
入社から2年。 初めて足を踏み入れる社食のバイキングレストラン。 新入社員の頃から一度来てみたかったその店に、義勇のテンションは嫌でも上がった。 嬉しくて嬉しくて、本当にずっとここに来てみたかったのだと告げると、錆兎は 「なんだか喜んでもらえて何より」 と、笑みを向けてくれる。 ...
翌朝…コーヒーのいい匂いで目が覚める。 ──目覚めの一杯のコーヒー…といいたいところだが、胃に何も入ってないからカフェオレな? と、渡してくれたそれには、コーヒーの匂いと共にほのかに香るシナモンの香り。
食事の時間まででも十分すぎるほど幸せだった。 この2,3時間くらいの思い出で10年は幸せに生きていけると思うほど。
今日は素晴らしかった。 いや、会議の内容は相変わらずのものだったのだが、それ以外が今までとは天と地ほどの違いである。
さて、あれから錆兎はどうしたんだろうか… とりあえず何かしらのアクションは起こしたのだろう。
宇髄の務める産屋敷商事は国内でも有名な優良企業である。 仕事はそこそこ忙しいが完全フレックスで、他との兼ね合いが少ない部署などは、必要な日以外は夕方から出勤して明け方に帰ったり、夜に出勤して翌朝に帰ったりする社員もいた。
こうしてとりあえずおおかためでたしめでたしとなったところで、錆兎は第二段階に移ることにする。
「鱗滝の鮭大根は絶品だなっ!毎日でも食べられるっ!」 と、口元に盛大に米粒をつけながら嬉しそうに語る義勇。
そして車で10分強。 そこそこ高級感のある自宅マンションの駐車場に車を止めた。 そこに誰かを招くのは初めてである。 錆兎は知人は多い方ではあるが、友人と思える相手は少ない。
ついに77回目。 出会ってすぐに友人である宇髄のために待つことを決めた大学1年のあの日から7年である。
宇髄と義勇は小学生の同級生で、今も親しく付き合っている同級生がもう一人いるという。 不死川実弥… この前のランチの時もいたが覚えているよな?と言われて錆兎は頷いた。
「…すまん、天元。 俺はこれから外せない用事があるんだ。 だから必要なデータはメールで送っておいてくれ」
世界を敵に回しても 目次
1_憂鬱のあとの幸運 義勇は不器用な性格のためか同期が集まる会議で皆に馴染めないどころか、大学からの同級生の不死川にいつも怒鳴りつけられる。 今日の会議も怒鳴りながらこちらに来る不死川から逃げるために大急ぎで会議室を出た義勇だったが、廊下に出たところで同じく学部は違うが同じ大学だ...
その日の気分は最悪だった。 というか、合同会議のあとはいつだって居心地が悪い。