世界を敵に回しても_6_一人と一人で二人ぼっちの誘い

「鱗滝の鮭大根は絶品だなっ!毎日でも食べられるっ!」
と、口元に盛大に米粒をつけながら嬉しそうに語る義勇。

ああ、良い発言だ。
と、それに錆兎は笑みを浮かべた。

そして交渉のきっかけはそのあたりでもいいな…と思い、錆兎はそれに対して口を開く。

「それは良かった。
なら、ここに一緒に住まないか?」

「へ?」
きょとんとする義勇。

ここで普通なら冗談だろう?と笑うところだが、義勇は生真面目なのと人慣れなくてそういう冗談を言い合うような人間関係がないせいか、真正面から受け止めてただ驚いている。

そんな表情も可愛いなと思って笑みを浮かべつつ、
「気に入ったならまだたくさんあるんだが、もう少し食べるか?」
と聞いてやると、義勇が結構な勢いでコクコク頷くので、それにも少し笑って錆兎は空いた皿を手にキッチンへ行って鮭大根を追加してやって戻ってきた。

そしてそれを義勇の前に置くと、錆兎は
「食いながら聞いてくれ」
と、義勇の正面の席に戻って話し始める。

「もし驚かせることになったらとても申し訳ないが、結論から言うと、俺は最初に出会った大学1年の時からお前のことが好意的な意味で気になっていた」

まずは大切なことから…と思って言うと、それまで黙々と鮭大根を口に運ぶのに集中していた義勇が、え?!と驚いたように顔をあげた。

「それで親しくなれたら、と思って宇髄にもう少し親しくなれるよう仲介を頼んだんだが、断られたんだ。
ここだけの話、お前に特別な好意を持っていると思われる人間が居て、自分はずっとそれを見てきたから、他の奴があまりお前と親しくなると、そいつに申し訳ないから…と。
まあそれを聞いて宇髄の立場もあるだろうと俺はしばらく待つことにしたんだ。
それが前提な?
で、俺はそれから少し距離を置きつつ見てたんだが、お前、いつも不死川に色々言われてただろ。
あれがすごく気になっていたんだ。
俺にしたらそんなにキレるほどのことでもないことで、ぼろくそ言われてたから。
正直…今日のボッチ飯が辛気臭いとかも、別に不死川に迷惑をかけるわけじゃないんだから、放置すればいい話だろう?」

「…あ、うん…。俺もそれ思ってた…。
別に不死川に迷惑をかけているわけではないから、放っておいてくれないかって…」

「ああ、気持ちはよくわかる…。
俺もな、よくあるから。
相手も悪気があるわけじゃないんだと思うんだが、一人でいると何故一人でいるんだとか、あとは何故恋人を作らないのかとか…堅物だとか、相手紹介してやろうかとかな…
正直疲れている時は気を遣う相手と居るより一人でいた方が楽なだけだから放っておいてくれと思うんだが、放っておいてくれない。
でもな、冨岡と居るとすごく楽なんだ。
癒されるというか…
だから冨岡が今好きな相手が居るとかじゃなければ、俺とつきあってもらえないだろうか?
とりあえず一緒に暮らしてみて、冨岡が俺を恋人として見られなかったとしても、その時は仲の良い家族になれればいい。
何をしてくれなくてもいい。
冨岡がそのままの冨岡でそこにいてくれるだけで俺は勝手に癒されるし、一人でうんぬんと言われても、俺には冨岡が居るからと言える。
お前の側のメリットは…そうだな、俺はお前が色々言われた時に絶対に助けに入る。
お前の恋人である俺がこのままのお前が良いと言っているのだから、迷惑をかけているわけでもないのに他の人間にとやかく言われる筋合いはないし、放っておけと言ってやる。
もし同性だから嫌だというなら親友でもいい。
今の状態だと、不死川とかの方が古い付き合いだし、俺の方が第三者が余計な口をはさむなと言われるが、お前の恋人なら第三者じゃないと言えるだろう?」

錆兎がそう畳みかけると、義勇はなんだか固まったまま目を潤ませている。
それを見て、──失敗した…と、錆兎は思った。

あまりに長く待っていてようやく訪れた機会だったので焦り過ぎた。
確かに義勇の一番にはなりたいが、強引に言うことを聞かせたいわけでも困らせたいわけでもない。

義勇がそれを望んでいないなら、まずは普通の友達から徐々に距離を縮めていくべきだったか……


錆兎は自分の方が泣きたい気分で、──ごめん…と謝ろうと口を開きかけたが、違ったらしい。

ようやく義勇の口から出てきたのは
──…俺なんかでいいのか?
と言う言葉だった。

──お前なんかじゃないっ!お前がいいっ!
と、思わず身を乗り出すと、何故か涙目の義勇が

──よろしくお願いします…
と、頭をさげてくる。

ここで泣く?何故泣く?
嬉しいが何か自分の圧のようなもので押し切られて言っているのかと思って

「…冨岡がそう言ってくれてすごく嬉しいが…でも、大丈夫か?
なんか涙でているが…。
嫌なら普通に友人でもいいんだぞ?」
と心配になっていうと、義勇はとうとうしゃくりをあげながら、

「…っ…ちがっ…嬉しくて……俺なんか…選んでくれて……」
と、首を横に振った。


うわあぁぁ~~!可愛い!可愛すぎだろう!!
今どき乙女だってこんなことで涙しないと錆兎は義勇の愛らしさに心の中でのたうちまわった。

「…約束する。絶対に守る。大切にするから…」
とテーブルを回り込んで義勇のそばにいくと涙を拭いてやる。

そうしてさらに一言
──もちろん…この鮭大根を作るこの手もこれからはお前だけのものだ。
と言うと、義勇は目を丸くして息を飲んで、次の瞬間何度も大きく頷いた。


涙が少し落ち着いてくると、義勇がクスリと笑みを浮かべて
──でも…本当にプロポーズみたいだ…
と言う。

え?とその言葉にまた少し焦る錆兎。
──いや…俺はそのつもりだったんだが…

というと、また義勇は目を丸くする。
それに受け入れてもらえたわけではないのか、また先走ってしまったか?と内心不安になった錆兎だが、続いて義勇の口から出てきた言葉は

──え?ずっと?ずっと一緒にいてくれるのか?本当に俺で良いのか?
と言う、自己肯定感の低い義勇らしい言葉で、

錆兎はそれに安堵の息を吐き出しながら

──お前がそれで良いと言ってくれるなら、俺は老人になってもずっと一緒にいて、お前を最後まで看取る気で言っている。

と、言って義勇を抱きしめて、さらに

「俺はこれからお前を最優先に考えて生きていく。
俺の気持ちは絶対だ。
だから逆にそれがお前にとって本心でそれが幸せになれる唯一の方法だから別れたいって言われたら、自分の気持ちを殺してでもそれを優先するからな。
お前を幸せにできるなら、それは俺にとっても幸せな事だから、もしそういう時が来たとしても、心を痛めたりしてくれなくていい。
それは俺が決めた俺の選択だから」
と、付け加えると、義勇はいやだっ!と首を横に振って

「俺は絶対に鱗滝がいい!
俺から離れたいなんてことは絶対にない!」
と言いきって、ぎゅっと抱きしめ返してきた。

とりあえず…錆兎の7年越しの片恋は、こうして77回我慢をした今日、身を結んだのである。



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