世界を敵に回しても_2_長い片恋

「…すまん、天元。
俺はこれから外せない用事があるんだ。
だから必要なデータはメールで送っておいてくれ」

開いたままの会議室のドアの所で、学生時代から仲がよく、現在は同じ企画営業部で働いている宇髄と資料を片手に話していた錆兎は、珍しく自分から話を打ち切って宇髄の手に資料を押しつける。
そして返事も待たずに飛び出して行ってカツカツと若干早足で廊下を進んだ。



彼、冨岡義勇を知ったのは大学で塾が同じだった宇髄を見つけて声をかけたのがきっかけだった。

綺麗な黒髪と長いまつげに縁どられた夢見るように大きく澄んだ青い瞳。
錆兎は大柄な方だがそれを別にしても同年代の男の中に入っても小柄で華奢な体。

宇髄はモテる男だったので最初は女子かと思ったが、男と聞いて驚いた。
そのくらい、出会った時の義勇は可愛かったのだ。

ちょうど昼食時で宇髄に一緒にどうかと言われて二つ返事で了承した。
そうして少しばかりの会話で知ったのは、人見知りで内向的なこと。
でもそんな相手だからこそ、かすかに浮かべる笑みがとても尊く思えた。
錆兎は元来異性愛者なのだが、もう性別なんてふっとぶほどの勢いで、ストン!と恋に落ちたのである。


もちろん相手がそんな錆兎の気持ちを受け入れてくれるとは限らない。
…というかむしろ錆兎だっていきなり同性に恋心を打ち明けられたとしても困ってしまうだろう。
だから恋人ということにこだわりもなく、恋人になれれば一番だが無理なら親友でもいいと思っていた。

なのでまずは親しくなるきっかけが欲しいと宇髄に相談したのだが、いつもなら浮いた話一つない錆兎に気軽に誰かとつきあってみろと勧めていた宇髄が、今回に限っては渋い顔をした。

──冨岡…なぁ…。あいつはちょっとやめておいてやってくれねえか?
という。

言い方からして義勇の方の問題ではないのだろう。
すでに恋人がいるならそう言うだろうし、~してやってくれということは、誰かを気遣っている言い方だ。

それが義勇が何かトラウマ持ちだからということなら、宇髄の性格上、放置よりは上手に少しでも薄れるようにという方向の気遣いをすると思うし、その相手として選んでもらえるくらいの信頼は得ていると思っている。

もちろん宇髄の方も錆兎の性格をある程度熟知していた。
だからそれが義勇を著しく傷つけるということでない限り、宇髄が仲介役になるのを拒んだとしても、錆兎は自分でうまく関係を作っていくだろうと思っているはずだ。

だから、こちらから
──理由は?
と、言外に理由がわからねば宇髄がどういう行動をとろうとあきらめる気はないという意味を込めて聞くと、宇髄はとても困ったように、う~ん…と唸り声をあげる。

そして
──あのな、これはプライバシーの問題もあるから、どちらにしても他言はしねえで欲しいんだが…
と言う言葉に錆兎が頷いてみせると説明を始めた。



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