世界を敵に回しても_4_告白作戦始動

ついに77回目。
出会ってすぐに友人である宇髄のために待つことを決めた大学1年のあの日から7年である。



錆兎は仕事の忙しい両親の代わりに、現役を引退した後に近所の子どもを集めて剣道を教えている祖父に育てられた。

──大切な者は世界を敵に回そうと寄り添い守ってやるのが男というものだ

幼い頃から言い聞かされてきたその祖父の教えは現代の若者からするとやや時代がかっていて古いのかもしれないが、錆兎にとってはそれこそが正しく当たり前のことで、それを可能にする能力を得るために、文武両道で頑張ってきた。

あいにくその能力を発揮する相手を見つけられずに18歳を迎え、見つけたと思えば距離を取るしかなくさらに7年。
25歳になって初めて訪れた機会である。

宇髄には悪いが気持ちを抑えるのはもうやめだ。
好きな相手が傷つけられるのを77回も見過ごしてきた。
最大限の我慢してきたのである。

せめて義勇が大切にされて義勇も不死川のことを想っているなら諦めも付いたが、不死川は義勇を前にするといつでも暴言の嵐で、義勇はそれに傷ついて涙目になっていた。

毎度毎度それを見るたび、考えてみれば不死川の都合を優先するために自分はとにかくとして何故義勇が辛い目に合わなくてはならないのだとふつふつと怒りが沸き上がる。

途中でそう思って77回の猶予などバカバカしくなり始めたが、約束をしてしまった手前、そこで錆兎が無理に我を通してもし義勇とつきあえるようになっても、不正を行った付き合いということで、自分のみならず義勇の交友関係が荒れるかもしれない。

それでなくても内向的で多くはない義勇の友人関係を壊すのは出来る限り避けたい。
…とすると、やはり最初の宣言を守るしかないと、じりじりキリキリしながら待ち続けてようやく約束した猶予期間が終わって、心がふぅっと軽くなった。

暴言が70回を超えたあたりで計画を立てて、75回あたりで義勇に遭遇する可能性の高い日は無駄になることも覚悟のうえで色々準備をし始める。

月1で開かれる全部署の意見交換の場となる合同会議では、同じ入社時期の人間が集まることになっているので、不死川も義勇も当然出席するということもあり、カウントが進む可能性がとても高い。
だからその日は特に入念に準備をして臨んだ。

ということで、めでたく77回目の暴言目撃で告白作戦開始だ。


ああ…今日も泣いている…昨日も泣いていた…きっと明日も泣いているのだろう。
そんな風にイライラする日々ともおさらばだ。

不死川には宇髄の友人であるということで最低限の情けと思って、そういう言い方だと好意は伝わらないし、好きならもう少し言葉を選んだ方が良いと何度か忠告もしてみたが、返ってきた言葉は毎回
──別に冨岡なんて好きなわけじゃねえ!イライラするからイライラするって言ってるだけだぁ!
だったので、必要以上に義理は果たしていると思う。


宇髄とはプライベートだけではなく会社で仕事も一緒なので人間関係が悪くなると辛いなとは思うが、宇髄もそのあたりはきちんとした人間なので物理的に必要なことはきちんとやるだろうし、メンタルの問題だけなら仕方ない。

たとえ誰を敵に回したとしても、男なら大切な相手は全力で守るものだ。
そう…たとえ世界を敵に回しても、断固として戦うのが男というものなのである。

ということで自分的GO!サインを出した今日、会議室から涙目で出ていく義勇を追って錆兎は廊下へと飛び出した。


「冨岡、ちょっと話があるんだ。
つきあってもらえないか?」

色々考えて準備を進めていたといっても、やはり緊張はする。
それでも今更引くという気は当然なくて、錆兎が内心ドキドキしながら声をかけると、

「…はな…し?」
大きな青いまんまるい目が錆兎を凝視した。

いきなり腕を掴まれて驚いた顔をみせるものの、これまでおそらく比較的良好と言える関係を保ち続けていたおかげか、手を振り払われることはない。
ただ涙で濡れた目が困惑したように揺れた。

ああ…クソッ!可愛いすぎだろうっ!
と、そんな義勇を見て錆兎は心のなかで思う。

可愛い、愛しい、絶対に欲しいっ!
駄々っ子のように爆発する脳内。

「ああ、俺の個人的な相談なんだけどな…冨岡じゃないと絶対に駄目なんだ。
仕事のことじゃないんだが…駄目か?」
と、やや困ったような顔を見せれば、心根の優しい義勇は否とは言わない。

というか、自分が頼られるという滅多にないシチュエーションが嬉しいのだろう。

「…俺でできることなら…」
と、涙を拭いて了承してくれる。

「じゃあ、プライベートなことだし、俺の家は会社から近いから、うちで話をしたいんだが…。
このあとって時間大丈夫か?」
「ああ、問題ない。
明日の会議に差し支えるような時間にならなければ…」
「あー、それは大丈夫。
家は本当に電車で一駅、車で10分ほどだし俺も明日は会議だしな」

そう言いつつ、不死川や宇髄が追ってこないうちにと、錆兎はさりげなくあまり使われない裏口の方へ向かうドアへと義勇を誘導し、さっさと二人して車に乗り込んだ。


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2 件のコメント :

  1. このタイトルを見た時、大昔に中山美穂が歌っていた「世界中の誰より〜」が流れ出しました。
    読む度、リフレインしてます!

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    1. あ~なんだかsbgに似合いそうな感じの曲ですよね😁

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