さて、あれから錆兎はどうしたんだろうか…
とりあえず何かしらのアクションは起こしたのだろう。
などと想像しつつ、宇髄は不死川と並んでバイキングレストランの入り口まで来て、席をどのあたりに取るかと店内を見回して、ギョッとした。
(…おいおい…いくらなんでも進行早すぎだろっ…)
と、窓際に座る二人の友人の姿に一瞬で色々を悟る。
義勇は普段は絶対にこのレストランを利用しない。
何故なら不死川がよく利用するからだ。
学生時代は宇髄も一緒だったのでなんのかんので共に昼食を取っていた義勇と不死川だが、社会人になって宇髄だけ企画営業部ということでフロアが変わり共に昼食を取らなくなったら、当たり前のように義勇は不死川から逃げるように昼食時に一人でどこかへ消えるようになった。
義勇にしてみれば、毎日毎日不死川に怒鳴られながら昼食をとるのは辛いというところだろう。
そして宇髄と違って不器用な不死川では逃げる義勇を上手に引き留めておくことは至難の業だ。
だからここでいきなり義勇に出くわすとは、さすがの宇髄でも思っていなかった。
しかも錆兎付き…なだけじゃなく、スーツが昨日と同じだったり、ネクタイが以前錆兎がつけていたものと同じだったり…とどめはいつもはぴょんぴょん跳ねている義勇の髪がキレイに整っている。
もうこれは決定じゃないか?
義勇は昨日そのまま錆兎の家に泊まったのだろう。
(…お前…そんなに手が早い奴だったのかよ……)
と、あまりに速い展開に、さすがの宇髄も思考がついていかない。
そして一瞬固まったその瞬間、本当にそれだけはやめておいて欲しいのに、不死川が二人に突進していった。
「冨岡ぁ~っ、今日はボッチ飯じゃねえのかよっ!」
と、さらにやめて欲しいセリフと共に二人が座る席に張り付く不死川。
「おはよう、不死川。
挨拶は人間関係の基本だ…と、子ども時代に教わらなかったか?」
と、それに答えるのは義勇ではなく錆兎の方である。
「あ~、わりっ!鱗滝、おはようさん」
と、飽くまでにこやかに言ってくる錆兎に、不死川は頭を掻いた。
義勇に関しての諸々を別にすれば錆兎が不死川をそれなりに理解し評価している数少ない人間であるのと同様、不死川も錆兎には好意的に接している。
そして不死川が当たり前に同席しようと別のテーブルから椅子を引きずって来て座ると、錆兎はそれにも口調は柔らかいが断固とした様子で
「だめだ、不死川。
親しき仲にも礼儀あり。
俺達には俺達の都合があるし、今は同席を許可してない。
それ以前に、ここは二人席だから、勝手に椅子を移動したら通行のじゃまだし迷惑だろう」
と苦言を呈した。
そして有言実行とばかりに座っている不死川ごと持ち上げて元の場所に容赦なく椅子を戻す。
へ????
と、宇髄も…実際に持ち上げられた不死川も唖然とした。
いったいどういう鍛え方をしていたらその筋力なんだ?と、今の諸々の複雑な状況をスルーして聞いてみたい気にかられる宇髄。
不死川の方は、
「あ~確かにマナー違反だな。
じゃ、4人席に座ろうぜ」
と、それにもそう素直に応じる。
このあたり、相手によっては生真面目すぎて小うるさいと思われる錆兎の発言も、きちんと真面目に受け取るのが不死川だ。
そう、義勇のことがなければ実は真面目で不器用な者同士、なかなか気が合うようで関係は良好なのである。
ただし…飽くまで義勇のことがなければの話だ。
不死川は錆兎が譲ることになっても仕方がないと決めた限度をすでに超えてしまっているため、錆兎はおそらく一歩も譲る気はない。
現に
「いや、今は義勇とプライベートな大切な話をしながら飯をくっているから遠慮してくれ」
と、不死川の申し出をきっぱり断っている。
断られるとは思ってもみなかった不死川は呆然だ。
しかし錆兎に畳みかけるように
「宇髄と来たんだろう?
待っているようだぞ」
と言われて、二人から離れてこちらへと戻ってきた。
そして…宇髄を前にして一言…
──…鱗滝って…冨岡のこといつから名前で呼んでたんだ?
ああ、そこから気づくのか~…。
俺が言うのとあいつらから聞くの、どっちがまだマシだろうなぁ…
と、どちらにしろ面倒なことになりそうな予感に、宇髄は大きくため息をついた。
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