世界を敵に回しても_15_ランチタイム

錆兎に指定された場所は例のバイキングレストランだった。

会議の時には同期同士積もる話もあるだろうからと、午前中は11時まで。
昼の休憩は2時間で午後13時から始まる代わりに、帰りはいつもよりも1時間遅くなる。
なので社内で話をするなら好都合だ。

自分は義勇を拾っていくから、なるべくなら窓際の料理から遠い席を取っておいてくれと錆兎に指定をされ、宇髄は窓際の端の4人席をキープする。

そうして遠い景色に視線をやりながら、さあ、どう切り出すか、と、悩んでいると、錆兎が義勇を伴ってやってきた。


「悪い、待たせたか?」
「いんや、俺も今きたとこ」
「そうか、それならよかった。
義勇、悪いが俺と宇髄に先にコーヒーだけ持ってきてくれるか?
そうしたら先にゆっくり料理を選んでくれ」
と、そんな会話があって、義勇が席を離れたところで、

「昨日義勇を家に招いて気持ちを打ち明け、付き合うことになった。
これまでについては大学時代の初対面で好きだと思って親しくなりたいとお前に頼んだが、義勇を好きな奴がいてそいつに悪いからと言われてお前の立場もあるだろうから待っていたというところまでは言った。
その相手が不死川だということは言っていない。
うちは広いし会社にも近いし、なにより一緒に居たいから、義勇には近日中にうちに引っ越してもらって一緒に暮らすことになっている。
聞かれそうなあたりは以上だな。
何か質問があれば受け付ける。
聞かれたくないことなら義勇が料理を取りに行っている間な」
と、いきなりかまされて、もうお手上げだ。

確かに人間関係は宇髄の方が器用だという自負はあるが、相手は準備万端。
7年間煮詰めていた計画なのである。
かなうはずがない。

まあ…敵う必要性もないんだけどな、と、宇髄はそこでそのあたりはスルッと切り替えて、まず
「今回は結局お前に時間を無駄にさせるだけに終わっちまった。
俺の我儘で申し訳なかった」
と、頭を下げて詫びる。

7年間もかけても不死川の態度は変わらなかった。
つまり、7年間も錆兎に時間をどぶに捨てさせたのである。

そう、自分が待ってくれるよう頼まなければ、錆兎は自分が協力しなくても義勇の心をつかむのにそうは時間がかからなかっただろうし、そうなれば錆兎も義勇も7年間多く幸せな時間を過ごせたのだ。

そう思うと詫びのしようがない。
だが過ぎた時間は取り戻せないのだ。

なのでさすがにそれには少しくらいはムッとされるだろうと思った宇髄だが、錆兎は笑う。

「いや、おかげで義勇をゆっくり観察する時間が出来て、どういうことをすれば幸せにできるかを考えて、色々準備して行動に移したから今がある。
結果論ではあるが、今俺がこうして義勇とつきあえるようになったのは宇髄のおかげかもしれないから、気にしないでくれ」

その言葉は今幸せで余裕があるから出るんだろうなぁと一瞬思って、いや、錆兎の性格ならもし義勇が不死川とくっついてしまっても、
──宇髄が言ってくれたおかげで大好きな義勇が幸せになれたんだから…
とでも言いそうだと思い直した。

そうだ。
基本的に自分の決断で降りかかってきた結果に対して、錆兎は決して他人のせいにしたりしない男である。
だから宇髄だって親友になったのだ。

不死川には可哀そうだが、義勇は本当にいい男とくっついたな…と、思う。
錆兎と義勇に関しては本当に収まるところに収まってめでたしめでたしだ。


義勇が戻ってきたので入れ違いに宇髄と錆兎が料理を取りに行く。

そうして並んで料理を選んでいると、
──宇髄…肉ばかりじゃなくもう少し野菜も摂った方がいいぞ。
と、錆兎から苦言が降ってくる。

それに
──相変わらずだなぁ。お前は俺のおかんか?義勇にはそういうの言うなよ。うるさがられるぞ。
と返すと、錆兎は
──安心しろ。義勇には言わん。
ときた。

──おいおい…俺にだけかよ
と、それにさすがに苦笑すると、錆兎は
──義勇とは一緒に住むことになったからな。一食栄養が偏ってもあとの2食で補えるものを作るから。
と笑顔で言った。

ああ、はいはい。お幸せで結構なことだ。
と、色っぽい話がとんとなかった親友の幸せな恋を祝福しながら、宇髄はこれみよがしに肉だけ思い切り皿にぶちこんだ。


そうして席に戻ると、和やかに食事。
久々に一緒に食事を摂る義勇はやはり盛大に口元に色々をつけながら食べているが、錆兎は不快な様子を見せることなく、むしろ楽し気に義勇が食べるのを眺め、時折あまりにすごくなると口元を拭いてやっている。

そんな風に口元を拭かれた時、義勇がハッと気づいたように
「そうだ。今日はネクタイを汚さないようにしなければ!」
と、慌ててナプキンを首元に。

それに対して錆兎は
「ああ、別に汚してもクリーニングに出すか処分して別のをつけるから構わないぞ?」
と言った。

「あ~、やっぱ、そのネクタイ錆兎のかよ。
どっかで見たことある柄だと思ったわ」
との宇髄の言葉に、錆兎は
「俺がつけてるのは義勇のな?」
と自分の首元をゆび指す。
それにうんうんと嬉しそうに頷く義勇。

「こうしていると、錆兎が俺のって感じがして嬉しい」
と色々に執着したところを見たことがなかった義勇がここまで言うほどに、こんな短期間にその心をがっちりつかんだ錆兎の手腕に宇髄は内心舌を巻く。

そしてその後、
「それなら…互いの名前を刻んだペンダントでもつけているか?」
「うんっ!それ、いいなっ!!」
と続く会話に、恋愛ごとには慣れていないはずの親友が機会がなかっただけで相手が出来れば意外にその手のことをそつなくこなすことを宇髄は今更ながら知った。

そんな風に和やかに進むと思っていたランチタイム。
だが、想像していなかったイレギュラーで嵐が吹き荒れることになるのだった。


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