温泉旅行殺人事件_32

「なんか…色々えぐられる事件だったよなぁ…」 帰りの電車の中でコウがつぶやいた。 いつものごとくその横ではコウの肩に頭を預けてフロウがすやすや寝息をたてている。 「まあねぇ…人間関係考えさせられたよ、色々」 ユートも脱力したように肘掛けに肘をついて言った。 アオイもさす...

温泉旅行殺人事件_31

「時を遡る事20年前。俺達が生まれるより前の話です。 この新館はまだ出来てなかったんですが、ここから数キロ先の同系列の旅館に二組のカップルが旅行にきました。申し訳ないんですが敬称は略ということで。 男二人は一卵性双生児。今回の被害者の小澤光二とその双子の兄光一。 女二人はそ...

温泉旅行殺人事件_30

30分後、現在宿泊客のいない使ってない離れ。 「あ~!佐々木さんっ!どういう事ですかっ?!」 きちんと香も炊かれているその離れの和室には大きなホワイトボードが用意され、毎度おなじみの4人組、氷川夫妻、OL3人組、老夫婦、秋ちゃん、そして和田がコウの依頼によって集められている...

温泉旅行殺人事件_29

その時携帯が振動する。和田からメールだ。 昨日聞いた情報について調べてくれたらしい。 小澤光二。42歳。埼玉県出身。 家族は両親と双子の兄光一だが、現在、父親は他界、兄は1年ほど前から行方不明で、埼玉の実家には母親が一人で暮らしている。

温泉旅行殺人事件_28

「おかえり、ユート」 コウはドアを閉めるとユートを中に促し、自分も和室に戻る。 朝食が備え付けられた部屋ではすでにフロウが茶碗にご飯を盛って待っていた。

温泉旅行殺人事件_27

旅館の人間が共犯とかいうオチでなければ犯行推定時刻である17:20から18:40までの夫妻のアリバイは完璧だ。崩せない。 とすると…発想を転換させよう。 犯行推定時刻自体が間違っている可能性は?

温泉旅行殺人事件_26

「俺…実は間違ってるのかな…犯人は別にいるのか…」 コウは手を枕にしてゴロンと寝転んで天井をみあげた。 「大丈夫…コウさんはいつでも間違ってない」 そのコウを上から見下ろしてフロウが微笑んだ。

温泉旅行殺人事件_25

その後聞きたい情報を和田から全て聞き出してコウは頭の中でそれを整理し始める。 犯行推定時刻は17:20から18:40。 18:40というのはコウの推測通り20:40に発見された遺体の状況から死後2時間以上はたっていると判断されたためらしい。 そして、17:20に関しては、1...

温泉旅行殺人事件_24

そして双方テーブルを囲んで座り、フロウがお茶をいれてそれぞれの前に置くと、コウはそのままフロウを隣に座らせて始める。

温泉旅行殺人事件_23

まずアリバイを聞かれたのは17:20~18:40。 遺体が発見されたのは20時40分だったから、おそらく硬直が始まる程度に時間がたってたから単純に2時間以上たってるということで20時の2時間前という感じなのだろう。 しかし始まりの17:20分というのはなんなんだろうか…。 ...

温泉旅行殺人事件_22

ユートが氷川夫妻の離れに行って20分ほどした時、コウ達の離れの玄関で 「ごめんください」 と声がかかった。 「は~い♪」 その声に止める間もなくフロウが転がり出て行く。

温泉旅行殺人事件_21

「…たく…。心配性だから、コウは…」 氷川夫妻の離れへ向かう道々、ユートはそう言って苦笑した。 「俺が馬鹿な事でもするんじゃないかって、部屋にも返してくれなくて。」 身代金の受け渡しを失敗した事によってアオイが行方不明なことで自分が滅入っててコウが心配してる、そう相手に印象...

温泉旅行殺人事件_20

中に入って和室にあがりこむと、コウはタンスの側に自分の鞄をおいて中を探りつつ、ユートに座る様に指示をする。 「アオイは旅館の秋ちゃんにかくまってもらうから、それまでここから出るな。部屋にいないと気付いたら氷川夫妻が様子見にくる可能性がある。」 外に聞こえるほどではなく、タンス...

温泉旅行殺人事件_19

「コウ、何かわかった?」 厳しい表情で部屋に駆け込んで来たコウの様子に、ユートが声をかけると、コウはうなづいた。 「アオイは一人の時に何か拾って、さらに母屋で氷川澄花と接触。で、姫が拾った時計の持ち主は氷川雅之だ。つまり…アオイを返したくなかったのは氷川澄花で姫を返したかった...

温泉旅行殺人事件_18

眩しい…。 ユートは眩しさに腕で明りをさえぎった。 「ユートっ!!気がついたか…」 明りと自分を遮るようにできる影。 聞き慣れた声がそう言って、大きなため息。

温泉旅行殺人事件_17

嫌な予感がする…。 犯人の指示で警察を含む全ての人間が外庭に出るのを禁じられているので、コウは不安な表情で母屋から外庭に向かうユートの後ろ姿を見送った。 まあ…おそらく自分は過剰な悲観主義者なんだろう、楽観的な方向に考える事などまずないわけだし…と思ってはみるものの、嫌な感じ...

温泉旅行殺人事件_16

ユートが母屋の取り調べ用の部屋につくと、すでにフロウを伴ったコウは着いている。 「遅くなりました」 とユートは和田に軽く礼をすると、勧められた椅子に腰掛けた。 そこで和田がコウの時と同じくプリペイド携帯をユートに渡す。 今回は19:00に連絡があるらしい。 一応刻限は2...

温泉旅行殺人事件_15

目が覚めたのは鳴り響く内線でだ。 疲れきっていたせいか、コウにしては長く寝ていたらしい。 14時にベッドに入って時計に目をやるともう18時だった。 起きてまずしたのは、腕の中のフロウの確認。 気持ちよさそうに腕の中で眠っているその寝顔は可愛くて、胸が高鳴る。 急いででな...

温泉旅行殺人事件_14

部屋に入るとフロウがまず宣言する。 「とりあえず…寝る前にコウさんはお風呂かも?あちこちボロボロですし…髪の毛とかも葉っぱやクモの巣や色々ですごい事になってます。」 確かに…あちこち走り回って木登り崖登り色々やったからそうかもしれない…が…

温泉旅行殺人事件_13

一番端にある現在宿泊客の泊まってない離れ。 誰もいないはずなので鍵はかかっていない。 コウは靴もぬがずに中に入って寝室の洋室に駆け込んだ。