コウは手を枕にしてゴロンと寝転んで天井をみあげた。
「大丈夫…コウさんはいつでも間違ってない」
そのコウを上から見下ろしてフロウが微笑んだ。
ああ…可愛いなぁ…とその瞬間コウのスイッチがまた切り替わる。
生まれて初めて好きになった相手で…その相手が奇跡的に自分の事を好きでいてくれて…側にいてくれる。
「姫…」
「はい?」
呼ぶと天使の微笑みと共に降ってくる声も可愛くて…
自分は浮気する事なんて一生ないという事だけは自信がある…とコウは思う。
そう言えば…ユートのメールで雑談かもしれないが雅之に自分とアオイが浮気したらどうする?って聞かれたとか言ってたが…。
真面目にありえん…とコウは思った。
逆だったら…自分どうするかなぁ…とさらに考え込む。
もしフロウがユートを好きだとか言い始めたら…あの空気が読めまくって相手が何を望んでるかをちゃんとわかってて相手のしたい事をしてやれる人間関係の達人に自分ごときがかなうはずがないわけで…。
そう考えた瞬間、コウはふと思った。
自殺した親友には…彼氏とかいなかったんだろうか…。
いたらショックだろうなぁ、浮気された挙げ句に自殺されたら、と、さらに悲観的な方向へ向かうコウ。
自分だったら絶対にあと追うよな~と、またどんどん思考がずぶずぶと暗い方向へ沈んで行く。
「コウさん…もしかしてまた暗~い事考えてます?」
いつのまにか自分の横にうつぶせに寝転んだフロウの顔がすぐ横にあった。
「そんなに俺いつも暗い事考えてる様に思われてるのか?」
と、その言葉にまた落ち込むコウ。
「うん♪」
普通…そこで肯定するか?と呆れつつも、コウはそれが姫だよな、とも思う。
しかしそうきっぱりと肯定したあと、フロウは
「あのねっ、そんな風に心配性で悲観的なコウさんも、でも我慢強くて諦めないコウさんも、優しくて面倒見の良いコウさんも、強くて何でもできるコウさんも、全部コウさんだからっ♪全部まとめて好き♪」
と、あのコウが大好きな、もう見ているだけで全てがどうでも良くなるくらい幸せになれる可愛い花のような笑顔で付け加えた。
ああ、もう反則だ…と無言で赤くなるコウ。
最近…ユートにしばしば”天使の奴隷”とか言われたりもするのだが、もう奴隷でも何でもいい。
彼女がする事ならなんでも許せる気がしてくるし、彼女がしたい事ならなんでもさせてやりたい、と、コウは思う。
「で?何考えてたんです?」
フロウはそんな事を考えているコウに、可愛いクルクルとよく動く瞳で問いかける。
「ん~…例の自殺したって言う親友の女性の方には恋人とかいなかったのかなぁと、ふと思った」
そしてコウがそのあとを付け加える暇もなく、
「ん~、じゃ、秋ちゃんに聞いてみましょう♪自殺したのこの近くだって言ってましたしっ」
と、フロウは起き上がった。
そして止める間もなくまた携帯を手に取って電話をかけている。
別に事件がどうのとかと思ってたわけじゃないので、こんな時間にわざわざ聞く事でもないんだが、フロウは現在コウが考えている事イコール事件の事と取っている…いや、関係ないか。
彼女はそんな取捨はしない。
単にコウが疑問に思ってる事があるから、知ってる人にきいてあげようと、すごく単純に思っただけに違いない。
もう時間が0時を回ってるとかそういう事も全く関係なく…。
「あ~秋ちゃん、20年前このあたりの崖で自殺した女性って…彼氏とかいたかわかりません?地元の人じゃなかったらたぶん本館泊まってたんじゃないかと…」
あ…なるほど。
このあたりは温泉郷ではあるんだが、このあたり一体がこのグループの土地で温泉街とは少し離れている。
まあ…彼氏うんぬんは別にして、動機を探る上で氷川澄花と小澤の過去がわかるとありがたい。
「調べてくれるそうですよ~。」
フロウは電話を切るとそう言って小さくアクビをした。
普段はとっくに寝てる時間だ。眠いのだろう。
というか、その場にコロンと横たわって、次の瞬間コテンと眠りに落ちている。
コウはそのフロウを抱き上げてベッドに運ぶと、自分はその下に座り込んだ。
そこでコウは再び事件の考察へとスイッチを切り替える。
自分は間違ってないらしい。
フロウは空気を読まない。
自分が悩んでるからといって思ってもない事を言ったりもしない。
その彼女がいつもの絶対的に正しい勘を持って自分が間違っていないというのだ。
犯人が氷川夫妻というのは決定事項として考えを進めて行こう。
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