「早速なんですが…さきほど電話で申し上げた通り、優波は誘拐される前、アオイが小澤さんの離れの前で人影を見たというような話を聞いてたらしいんですが、それを聞いた当時はまだ小澤さんの遺体も発見されてなくて、それが殺人事件の犯人の特定につながるかもとは思ってなくて、気に留めてなかったんです。」
「なるほど。つまり佐々木葵さんが誘拐されたのは身代金目的ではなく、犯人を目撃されたからかもしれないという事ですね?」
「はい。相手もアオイに気付いていたとしたら、その可能性は充分あると思います。
そう思って考えてみれば、あの身代金の受け渡しは不自然だと思うんです。
元々一人しか返す気がないなら、俺にあんな条件付けするのは無意味だと思いませんか?
身代金の二重取りをしたいなら最初から俺が自力で戻れない場合は、あと5000万出さないともう一人返さないと言えばいいわけで…それ以前に、1億欲しいなら2度も身代金の受けとるなんて危ない橋渡らなくても、始めから二人分で1億よこせですむはずですよね?
犯人はアオイを返したくなくて、でもそれを気付かれたくなかったんじゃないかと思うんです。」
「なるほど!さすが総監のご子息ですね」
コウの言葉に身を乗り出して言う和田。
なるべくそちらに話を持って行って欲しくないんだけどなぁ…と、コウはそれに対して内心苦笑しつつも続ける。
「そう考えるとですね…誘拐と殺人は同一犯の可能性が出て来るんで、殺人が解決すれば誘拐も解決するんじゃないかと思うんです。
で、さきほども申し上げた通り、彼女なんですが…」
そこでコウはチラリとフロウに視線を落とし、フロウはきょとんとコウを見上げた。
「情報の取捨ができないというか…きっかけがないと思い出さないと言うか…もしかしたらアオイからもっと重要な情報を聞いてるかもしれないんですが、今の時点だと忘れてて思い出さないんです。
逆に言うと、何かのきっかけで今回の様なすごく重要な事を思い出す可能性もなきにしもあらずで…。
俺も警察関係者の身内なので、それが許されない事で、本当に無理なお願いというのは重々承知しているんですが、彼女が思い出すのに与えるべき情報以外は絶対に俺一人の胸のうちに閉まって漏らしませんので、ある程度の殺人事件の側の捜査状況を教えて頂けないでしょうか?
このまま知っていて思い出さないままだと、優波の方にも危険が及ぶ可能性がありますし。
もちろん、優波の方にも教えた事の口止めはします。危険ですから。」
コウの言葉に和田は悩んだ。
しかし最終的に覚悟を決めたようだ。
「これは…露見すれば私のクビが飛びますが…碓井さんの身元、これまでの経歴や行動を信用しましょう。
ただし他に知れると絶対にまずいので、私個人の携帯とのメール連絡にして下さい。メールは内容を確認したら即消す事。よろしいですね?」
まあ…苦肉の選択なんだろうな…とコウは自分で言い出しておいて心中和田に同情する。
捜査情報を部外者に漏らすなんて事は本人も言っている通り絶対に許されない、クビですまないかもくらいの事だ。
しかし…ここで下手に断ってそれが原因で”警視総監の息子の婚約者”を万が一死なせるような事になったら…それはそれですごい騒ぎと言うか…下手すればマスコミにない事ない事書き立てられて警察人生どころか人としての人生が終わりかねない。
「もちろん…情報の漏洩には細心の注意を払います。道義的にも許されないというのもありますし、俺も…警察関係者の身内でそういう事を熟知している身でありながらそんな事をお願いしたと父に知れたら確実に勘当されますから。」
まあこれも事実なわけで…自分の方も崖っぷちな事情は和田の方にも明かしておく。
あまり長くいると問題になるので、それ以上はメールでと言う事にして和田は帰って行った。
ということで、警察が知りうる限りの殺人関係の情報は入って来る事になった。
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