温泉旅行殺人事件_28

「おかえり、ユート」
コウはドアを閉めるとユートを中に促し、自分も和室に戻る。
朝食が備え付けられた部屋ではすでにフロウが茶碗にご飯を盛って待っていた。

「ただいま。メール全部目を通してくれた?」
ユートはいそいそと席について、そう言うなり朝食をがっつく。
「ああ、お前すごいな。真面目にすごい。普通過去の女関係までなんて聞き出せないぞ。ありえん」
昨日ユートからは雅之達と交わした会話を逐一メールでもらってる。
その中には例の雅之がコンプレックスを持っていた相手と雅之の昔の彼女が浮気して…みたいな話もあって、コウはもう感心するしかなかった。
自分では絶対に教えてもらえない。
「ん~勝手にしゃべってくれてたよ?」
ズズ~っとみそ椀をすすりながら言うユートに、コウは驚嘆のため息をついた。

「お前さ…それすごい才能だって。たぶん相手が俺だったら絶対にそんな話してくれないぞ。」
普通の高校生として自力で苦もなく相手からどんどん情報を引き出せるユートと比べて、親の権力をかさにきてとも言える様な状態で半分脅して情報を手に入れている自分があまりになさけない。
おそらく…空気を読んで相手を安心させる事がユートにはできるんだろう。
ひたすら他を斬り捨てて費やした時間で少しばかり勉強と武道ができる自分とは根本的に出来が違う、と、コウは思った。

それを思わず口にすると、ユートはクスっと笑いをもらす。
「まあ…隣の芝生は青く見えるってね。それよりそっちどうよ?なんかわかった?」
軽く流すユート。
これだけ頭良い奴は他人は他人、自分は自分と言う割り切りができて、コンプレックスなんて感じないんだろうな、と、コウはそんなユートを見てまた思いつつ、自分の方の情報を逐一ユートに流した。
お互いがお互いにコンプレックスを持っている二人の絶対的な違い…それは、それを素直に口にするか、あくまで出さないかなだけなのだが、もちろんコウはそんな事には気付かない。

「ちょ、そのネックレスってさ…」
話がアオイから得た情報まで進んだ時、ユートが箸を止めた。
「たぶん…雅之さんもしてたよ?普通に。俺単に結婚指輪かなんかで目立つ様にはめるのが恥ずかしいのかと思ってたけど…」
「ほんとか?!」
微妙にひっかかる。
K to S…それが単純に" Kouji to Sumika "だと思い込んでいたが…違うのか?
「指輪の…裏側なんて見てないよな?」
コウが言うと、ユートは少し気まずそうに
「そこまでは…。あの時は俺それで四葉のロケットの事連想して滅入って終わったし…」
と、頭を掻いた。





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