聖夜の贈り物
「坊ちゃん、おいし?」 大陸へ向かう船の中。出航した翌朝の事である。 何故かいる髭男。 確か…北の国の貴族だったか…。 それがさらに不思議な事にアントーニョ達の食事は調理人に作らせているのに、アーサーの食事だけ自分で用意していた。
自分のそれより骨ばって固い指が頬を滑る感触。 くすぐったい…と思う間もなく、そのまま唇へ。 ゆっくりと左端から右へとなぞる感覚がなんだかむずがゆい。 …なんだ?
助けてくれ。 早く着いてくれんと親分犯罪者になりそうや…。
「あ~あ…行っちゃったねぇ…」 「そうだな…」 珍しく喧嘩もせずたたずむ兄弟。 そしてその後ろにはもう一つ人影が…
「あ、良かった。気付いたね、アントーニョ兄ちゃん」 ふと気がつくと目の前にはフェリシアーノ。 「びっくりしたよぉ。二人して上から降ってくるんだもん。ウィルがいなかったら死んじゃってたよ」 ニコニコと言うフェリシアーノの横にはウィリアム。
「あ~ホントに来ちゃったんだ。もう面倒くさいなぁ…」 塔内にいたのはほとんど魔術師で、詠唱の時間を与えずになぎ倒すアントーニョとルートヴィヒによって、次々と倒されて行った。 そして辿り着いた大きなドア。
怯えていた…震えていた…それなのに!! 「くそっ!!」 3人が飛び去ってからしばらく後、ウィリアムの言った通り、術の拘束が解けた。 その間ずっと体を動かそうとしていたアントーニョはいきなり解けた術にたたらを踏むが、踏みとどまり、そのまま絨毯が飛んで行った窓にかけよ...
「焦がさないようにね~、丁寧にかきまぜて。そう、上手♪」 キッチンに立つエプロンをつけた天使二人。フェリシアーノ&アーサー。 可愛ええなぁ楽園やんなぁ…と今度は素直に思うのは、自分の隣にフェリシアーノの想い人ルートヴィヒがいて、フェリシアーノがたまにそちらにほわわ~と...
アントーニョが自室に戻ると、ちょうど手当てが終わったところなのか、フェリシアーノがアーサーのパジャマのボタンをとめていた。 二人はいつのまにか仲良くなっているようで、アーサーもそれに対して全く気負うことなく、二人で楽しげにおしゃべりをしている。
「あ~、もう気にせんといて。今回は色々世話になったのはこっちの方やし」 フェリシアーノにうながされてダイニングへ降りて行ったアントーニョを出迎えたのは、ルートヴィヒだった。 泣いてるフェリシアーノをなぐさめようと肩を抱いていたら誤解されたらしく、いきなりすごい勢いで殴...
「ま、それはおいておいて…アントーニョ兄ちゃんが来る前に話聞いちゃおうかな。ね、アーサーは魔術師なんだよね?」 時間には限りがあるのだ。 アントーニョの気持ちを知らせるのは本人に任せる事にして、フェリシアーノは先に進む事にした。
「アーサーの事色々聞きたいんだけど…」 フェリシアーノはとりあえずかすかに残るアーサーの怪我の手当てをしながら話し始めた。 「俺の事先に話した方が話しやすいよね?」 と、人慣れしていないアーサーに対する気遣いがありがたい。
「アントーニョ兄ちゃん、いい?」 意外な事に今日は自分達以外に人がいるようだ。 柔らかい…どこかひとを安心させるような声と共にドアがノックされる。 そして返答をする前にかちゃりとドアが開いた。
…人肌が温かくて心地よい事を知ったのはつい最近だ…。 大きな手になでられるのは気持ち良い…。 抱え込まれるように抱きしめられるのも不快じゃない。 もう二度と体験することはないだろうけど…
「フェリシアーノ、すまん。少々誤解していたようだ…」 ルートヴィヒが部屋に戻った時の開口一番がそれだった。 「な、言ったろ?」 と、それを聞いてぱち~んとウィンクをして見せるギルベルトの横でフェリシアーノは両手を口にあててふるふると震えていたが、やがて 「ル~...
「…おい、ムキムキ。さっきのなんなんだ?犠牲って誰がだ?」 自分が部屋にいても何かできるわけでもない、そう判断して廊下に出たロマーノは、部屋のすぐ横の廊下で壁を背に座り込んで膝に顔を埋めているルートヴィヒをみつけ、自分もその横に座った。
(…神様…神様…お願いや…) アーサーが吐き出した血がアントーニョのシャツが赤く染める。 それにも構わずアントーニョは連れ去られるのを恐れるように、細い体を強く抱きしめた。
「…痛いん?…堪忍な。…もう親分なんもしてやれる事ないんや……。 …せやけど…もうちょっと頑張ったって。お願いや。 …元気になったら…そうやな、ピクニックでも行こか。 弁当にはアーサーの好きなエンパナーダいっぱい作って…おやつにチュロスもつけたるわ。 それとも...
「この子に……さわんなやあぁっ!!!」 アーサーのお気に入りのトマト畑の一角で、アーサーが不審者に腕を取られていた。 そこでアントーニョは思った。 訂正するっ!自分の認識は甘かったっ! アーサーはボ~っとしている間に捕まって、慌てて涙目で抵抗するタイプだと...
二人が追いついた時には、すでにアントーニョが敵に一太刀浴びせたあとらしかった。 アントーニョから数メートル離れた先に、手から血を流した侵入者らしき男がいる。 アントーニョが侵入者から隠すように後ろにかばっている少年は、なるほど乳母の息子が言っていたように自分よりは線が...