聖夜の贈り物 9章_4

「ま、それはおいておいて…アントーニョ兄ちゃんが来る前に話聞いちゃおうかな。ね、アーサーは魔術師なんだよね?」
時間には限りがあるのだ。
アントーニョの気持ちを知らせるのは本人に任せる事にして、フェリシアーノは先に進む事にした。
そして聞かれたフェリシアーノの質問に、ずっと隠してきた事だが、今更隠しても仕方ない、と、アーサーはうなづく。

「誰にも言わないから…どうして今こうしているのか聞いて良い?記憶って実はあるの?」
さらなるフェリシアーノの言葉にアーサーは一瞬迷ったが、まあ万が一知れたところで全てが今更だ。魔法を使ったのが知れた時点でどちらにしても国には戻してもらえない。
アーサーは諦めて自分の身の上から始まって、怪我をした経過から、アントーニョに拾われたときのこと、情報を引き出そうとして挫折した事、トマトが実ったら黙って帰るつもりだった事、あの日の侵入者はおそらく自分を連れにきた末の兄だったことまで、全て包み隠さず話した。

全てを聞き終わった時、フェリシアーノは何度か言葉を選んでいたようだが、やがて
「心配しないで。俺はアーサーの味方だからね」
と前置きをしたあと、
「いくつか聞きたいんだけど…」
と、始める。

「一つはね、アーサーは結局どうしたいのかな?意地悪な兄ちゃんたちがいても実家に帰りたいの?それともここにいたい?」
「どうしたいなんて考えた事なかった…」
その質問にアーサーは即答した。
「今まで俺がいても良い場所なんてなかったから…。それでも唯一実家は役に立つ間は衣食住は与えてくれたから…当たり前に帰るものだと思ってた。」
アーサーの答えにフェリシアーノは腕組みをしてう~んとうなる。

「ね、アーサーの話きいてる限り、家と戦場しか行った事ないんだよね?そしたら逆にいちゃダメって言うのが実家だけって可能性もあるわけだよね?」
「へ?」
考えてみたこともなかった言葉にアーサーはポカ~ンと呆ける。

「あのさ、少なくともアントーニョ兄ちゃんはアーサーがいきなり消えたらすごく悲しむよ?…っていうか……あの人ああみえて結構執着心強そうだから、地の果てまで探しに行く気がする。」
「まさかっ」
「まさかじゃないよっ。アーサー全然わかってないでしょ。アントーニョ兄ちゃんのアーサーに対する執着って、ギルが本気で怖がるくらいだったんだよ?とにかく、アーサーが実家帰りたいとかじゃなければ帰らなくていいんじゃないかな?」
そう言ったあと、フェリシアーノはアーサーの両手を自分の両手で握って
「それに…」
と視線を合わせる。そして
「アーサー帰っちゃったら会えなくなっちゃうし、俺も寂しいよ。」
と続けた。

ずっとアントーニョやフェリシアーノと一緒に……
それは随分幸せな生活に思えた。
しかし……
「無理だ…」
とアーサーは首を振った。
「どうして?」
と首をかしげるフェリシアーノの言葉に俯き加減に答える。
「敵国の魔術師って知っててかくまってるなんてわかったら…迷惑かけるし…」
「な~んだ、そんなこと」
悲壮な思いで口にした言葉をフェリシアーノはあっさり流した。
「そんなことって…」
「大丈夫。アーサーが魔術師だってことは俺以外気付いてないから♪」
「え??だって俺確かに目の前で…」
そう、目の前で魔法を使って移動したはずである。
「えっとね、あの時アントーニョ兄ちゃんは侵入者の方向いてたから。でもって意識が侵入者にむいてたし、一瞬でアーサーが移動してきた事気付いてない。で、俺の兄ちゃんはやっぱり緊張しすぎてて単に自分がアーサーが移動したのを見逃したと思ってたよ。だから気付いたのは俺だけ。」

「だからか…態度が全然変わらなかったの。」
謎が一瞬にして解けた。

力が抜けるアーサーに、
「でもね、俺が聞いたような事情をアントーニョ兄ちゃんが聞いたら、もう絶対にアーサーの事手放さないと思うよ」
とフェリシアーノが付け足す。
「まあそれはそれとして、責任かぶせるのが嫌ならこのまま記憶がないって言うのをあくまで貫けばいいんだよ。大丈夫っ、俺に任せてっ!俺が絶対にハッピーエンドにするからっ。」
「でも……」
このままここにいたらきっと何かにアントーニョを巻き込んで危険な目に会わせる、そう続けようとしたアーサーの言葉をフェリシアーノは遮った。
「そのかわりね、俺もアーサーにお願いがあるんだ。」
「お願い?」
「うん♪宝玉探しに大陸に行く時、一緒に行ってくれないかな?アーサーが一緒なら俺も心強いし、楽しいと思う。色々まだ準備中だけどね、時期がきたら一緒に行ってくれない?
まあ…その場合もれなく血相変えたアントーニョ兄ちゃんが追っかけてくる気もするけどね。」
「大陸…かぁ」
「うん♪そんなつらい家に戻るよりはきっとずっと楽しいよっ。一緒に幸せを探しに行こう?」
フェリシアーノの笑顔を見ていると、本当に幸せが見つかるような気がしてくる。
というか…他にいていいと言ってくれる居場所ができるなら、嫌がる実家に居座る理由もない気がしてきた。
「そう…だな。ああ、いいかもしれない。」
「やったぁ!」
自分が一緒にいる事によって喜んでくれる人がいる。
それはなんて幸せな事なんだろうと、アーサーは思った。
たとえそれが今の…最初につかみかけた泣きたいような幸せの終わりだったとしても…。










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