聖夜の贈り物 9章_3

「アーサーの事色々聞きたいんだけど…」
フェリシアーノはとりあえずかすかに残るアーサーの怪我の手当てをしながら話し始めた。
「俺の事先に話した方が話しやすいよね?」
と、人慣れしていないアーサーに対する気遣いがありがたい。


フェリシアーノはそれから淡々と自分が現国王とその正妻の孫であること、父親が暗殺された時に皇太子であるロマーノは身の安全を図るため秘密裏にアントーニョに預けられ、一人城に残された事、亡くなった護衛クラウスの事、現在それをクラウスの末弟のルートヴィヒが引き継いでいる事、そのルートヴィヒを特別な意味で好きな事など、おおまかな自分の身の回りの状況を説明した。

「でね、ここからはちょっと秘密の話。」
誰に聞かれるわけでもないのだが、フェリシアーノは少し声のトーンを落とした。
「俺ね、近いうちにこの島を出ようと思ってるんだ。
俺達双子だから王位継承権のあたりもちょっと微妙で、城の皆が慣れちゃっている俺がいると兄ちゃんに迷惑かけちゃうかもって言うのもあるし、別の目的もある。探したい物があるんだ。
ここまではアントーニョ兄ちゃんには話した事あるんだけどね。何を探したいかまでは言ってない。
だからこれ教えるのはアーサーが最初だよ」
「そんな大事な事を俺に教えていいのか?」
「うん。俺もアーサーの抱えてる秘密全部聞きたいから。俺の抱えてる秘密も隠さない。相手に信じてって言う前に自分が信じなきゃね」
と片眼をつぶるフェリシアーノ。
「…お前…強いんだな…」
感嘆のため息をつくアーサーに
「ううん。弱いから協力して欲しいんだよ」
と微笑んだ。

「俺ね、さっき話した通りクラウスを亡くしたからルートまで亡くすのはすごく怖いんだ。でも俺は力もなくて…王様になるわけでもないから、もし戦争が大きくなってルートが前線に行く事になっても、それで死んじゃう事になっても何もできないんだよね。
もちろんルートだけじゃなくてさ、兄ちゃんもじいちゃんもアントーニョ兄ちゃんもエリザベータさんもギルも…俺が知ってる人みんな全員死んで欲しくない。
みんなさ、平和な中で好きな人と一緒に幸せになって欲しい。
俺、みんながハッピーエンドがいいんだよ。
でね、お城の宝物庫の中で偶然みつけた古書にね、書いてあったんだ。
太古の昔、まだ今よりもっとあちこちで争いがあった時にね、平和をもたらした宝玉があったんだって。」

「あ~。もしかしてカトル・ビジュー・サクレの事か?」
「うん!それだよっ!!アーサーすごいね、知ってるの?!」
「まあ…魔法王国だから、東の国は。その手の伝承は結構残ってる」
「そっかぁ…やっぱりアーサーに話してみて良かったよ~」
本当に嬉しそうなフェリシアーノの様子に、アーサーも嬉しくなった。
西の国にきてから初めて誰かに貢献できた気がする。
「カトル・ビジュー・サクレがもたらした力で島内は一つになり、その平和は260年続いたが、野心を持った4人の男がその力を手中に収めようと争い、宝玉は4つに割れて世界の果てに飛び散った。その後島の平和は破られ、4人の男を中心にした4つの勢力に分かれて争いが起こり、4つの国となった。…だったな、確か。」
「うんうん、そう。それだよ。でね、俺それを探しに行きたいの。4つに割れた宝玉を集めてくっつければ、また平和になるんじゃないのかなって」
「……ただの伝説かもしれないぞ?」
というか…伝説なんだろうと思う。
「でもさ、本当の事かもしれないじゃない?俺はここにいても何にもできないし、もし探してみて本当に探し当てられたら皆幸せになれるし、宝玉じゃなくても途中で素敵な何かを見つけられるかもしれない。」
満面の笑顔でそう言ったあとに、フェリシアーノはふいに少し笑みを消し、真面目な顔をして言う。
「これはね、宝玉探しよりずっとずっとず~~っと秘密なんだけど…」
と、声をひそめるので、アーサーも真面目な顔で耳を寄せる。
「島を出て王子じゃなくなったら…ルートが俺を恋人候補としてみてくれるかもしれないかなって…。城にいたらそもそも臣下の態度崩せないし。」
俯き加減にごにょごにょと口ごもるフェリシアーノも可愛い。

「そんなに…好きなのか…」
つぶやくアーサーにうんうんとうなづくフェリシアーノ。
でもこんなに可愛いフェリシアーノに好かれているなら絶対に相手もフェリシアーノを好きに違いないと思う。
アーサーがそう言うと、フェリシアーノは
「だといいなぁ…ルートはアントーニョ兄ちゃんみたいにわかりやすく愛情表現してくれないから」
と苦笑する。

「あ~、そうなのか。」
アントーニョもこの可愛らしい少年が好きなのか…。
そうだろうな、この調子で懐かれたら嫌える人間がいるとは思えない。
と、思いあいづちをうつアーサー。
確かにアントーニョはわかりやすくあふれるほどの愛情を注ぐ。
ただ偶然助けた居候の自分にですらそうなのだ。
好きな相手だとどれだけなんだろう…と思うと、何故かつきりと胸が痛んだ。

「アーサー?どうした?傷痛む?」
急に黙り込んだアーサーに、心配そうに聞くフェリシアーノ。
そこでハッとしてアーサーは軽く首を横に振った。
「いや、なんでもない。大丈夫。そっか、あいつ俺に対してさえすごいから。フェリに対してなんてすごいんだろうな。」
「へ?なんのこと?」
きょとんとするフェリシアーノにきょとんとするアーサー
「いや、さっきのアントーニョが愛情表現がすごいって話。悪い、ちょっとぼ~っとしてて返事遅れた。」
「アーサー…」
アーサーの言葉にフェリシアーノは苦笑した。
「俺に対してじゃないって。アントーニョ兄ちゃんが好きなのはアーサーだよ?」
「へ?」
「へ?じゃないよ。もしかしてぜんっぜんわかってなかった?」
「誤解だ。あいつは単に俺が怪我してたから放っておけなくて拾って帰っただけで…」
は~~と大きくため息をつくフェリシアーノ。
アントーニョ兄ちゃんも報われないっていうか…大変だなぁ…と、他人事ながら思った。







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