聖夜の贈り物 10章_終章

「あ~あ…行っちゃったねぇ…」
「そうだな…」
珍しく喧嘩もせずたたずむ兄弟。
そしてその後ろにはもう一つ人影が…


「これで良かったんですか?スコット兄さん」
クルリと振り返ったウィリアムが声をかけた相手は、ローブに身を包んだ長身の男。
「あれは…旅立たせないとならん宿命の子だからな。」
スコットは苦い笑いを浮かべた。

「生まれた瞬間にカトル・ヴィジュー・サクレに呼ばれる宿命を背負っていたからな。俺達に出来たのは、あれに情を移さず、教育し、旅立ちたくなるようにあれからも情を移させず、守護する者に引き渡す事だけだ。」

「うん。フェリは良い子だったよ。料理上手だし、素直で…しかも芯が強い。ほとんど身を守るすべを持たないのに敵のとこにとどまるなんて出来ないよ、普通。」
「なんだよ、ルートだってなっ、ムキムキだし、つええし、ムキムキだし…」
「ムキムキなだけじゃない」
「いいじゃねえかっ、ムキムキ!」
「あ~はいはい。」
じゃれあいながら歩く2人。

「まあ…カークランド本家の圧力にも屈せず、下っ端とはいえあれだけの数のカークランドの血筋の魔術師を倒し…アーサーのために迷わず命を投げ出す男、そうはいないだろうな。上出来だ。」

これで守人としてのわれらの役割も終わるな…
あとは…彼らがカトル・ヴィジュー・サクレにたどり着けるかどうかは、神のみぞ知る…

夕闇の中、あえて魔法を使わずに歩く道のり。
泣く子も黙る魔術師一族の長、スコット・カークランドは
(願わくば…愛しい一番小さな弟が今までの分も幸福であるように…)
と、誰に伝えるでもなく、心の中でソッとそう祈った。




(ああ…可愛ええなぁ……)
北の国から船に乗ってようやく一安心。
アントーニョは疲れた体を休めるために、船室のベッドで横たわっていた。

あの高い塔を敵をなぎ倒しながら一気にかけあがったため、さすがに体の節々が痛むが、今自分の横に寝かせている可愛い天使を見ていると、その疲れも心地よい達成感に変わる。

救出前、扉を通した対話で思い切り泣いたためか、いまだ白く涙の跡の残る柔らかな頬。
その白い跡をス~ッと指でなぞり、薄いピンクの唇へ。
かすかに開いた唇をまた指でなぞっていると、唇の合間からかすかに覗く小さな舌。
ズクリと下肢に熱い何かが来るのを、軽く頭を振って追い払う。

(あかん…さすがに寝込みはあかんやん…)
家族…と強く思っていた時はただ子供のように可愛らしく愛おしかったのが、今回、家族以上の特別な…と意識したとたん、背徳的な甘露に見えてくる。

(あかん…寝込みだけはあかん…)
必死につなぐ理性は、花がほころぶようにゆっくりと開いた瞼に釘づけになる。

(…寝込み…やなくなったやんなぁ…)

「おはようさん、やっと気ぃついたな。」
声をかけても、まだ完全に目が覚めてないのか、ぽ~っとしているのが愛らしい。
「…と~にょ?」
寝起きの潤んだ瞳がぽわ~っとアントーニョを捉え、舌足らずに呼ばれたところで、理性がキレた。

「ほな、目ぇ覚めたとこで、お仕置きタイムにはいろか?」
満面の笑みで宣言するアントーニョ。

一難去った事も認識する間もなくまた襲いくる一難に、アーサーが涙目で悲鳴をあげるまであと5秒。





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