「…おい、ムキムキ。さっきのなんなんだ?犠牲って誰がだ?」
自分が部屋にいても何かできるわけでもない、そう判断して廊下に出たロマーノは、部屋のすぐ横の廊下で壁を背に座り込んで膝に顔を埋めているルートヴィヒをみつけ、自分もその横に座った。
「あんな話きいたら気になるだろうがっ。悪いか、このヤロー。」
膝に顔を埋めたままのルートヴィヒの後頭部を軽くこづくロマーノ。
そう言えばこいつ普段ムキムキで偉そうだから忘れてたけど、年下だったか…と、今更ながら思い出す。
「ついでに言いたい事があるなら、聞いてやる。あいつがどういう決断をしようと、お前がどういう行動を取ろうと、最終責任者は俺だし知る義務と権利はあるんだ、覚えとけ、コンチクショーがっ」
こづくついでに、綺麗に整えられたルートヴィヒの短髪をクシャクシャかきまわしてみると、さすがに嫌そうにその手を払いのけられた。
「…100年に一度しか使えないんだ…」
やはり膝に顔を埋めたまま始めるルートヴィヒ。
「ああ、聞いたぞ。…で?」
「……とても…大事な力なんだ…」
「まあ、そうだろうな。」
「……お前の父親が死にかけた時も…使わなかったんだ。」
「……ほぉ?」
「現国王はまだ元気だったし、双子の跡取りの王子もいる。だから自分がいなくなっても大丈夫だから本当に使わないと困る時に使うようにと、自ら使わず死ぬ事を選んだんだ…」
「……」
「近衛隊長でフェリシアーノの護衛だった俺の長兄がフェリシアーノを守って死にかけた時…使いたがったフェリシアーノを周りは止めた。まあ当然の判断だ。前皇太子にすら使わなかったくらい貴重な力をたかだか臣下の一人に使っていいわけじゃない…。結果兄は死んで…フェリシアーノはひどく傷ついてしばらく泣き暮らした。たぶん…今でも心はその時に置いたままだ。…なのに今更何故あんな縁もゆかりもない、誰だかもわからぬ子供に使うのだ…」
そこでルートヴィヒの言葉は途切れる。
「あ~…だからじゃねえか?」
それまで黙って聞いていたロマーノはそこで口を開いた。
「どういう意味だ?」
「親父の事は赤ん坊の頃だから記憶にないとしても、お前の兄貴んことはすげえ悲しくて苦しくて…だからアントーニョにも俺にも同じ痛みを味あわせたくなかったんだろうぜ。」
「…そこでどうしてお前まで出てくる?あの子供の知り合いなのか?」
「いんや。あのガキとは昨日アントーニョ訪ねて初めて会っただけだ。でもあいつとは長い付き合いだしな。どれだけあいつがあのガキ大事に思ってるかもわかったし、それがあんな死に方したらあいつがどういう行動に出るかなんて想像できすぎてうんざりするくらいだ。自責の念につぶされて壊れるかあとを追おうとするか…どっちにしろ再起不能だろ。で、俺はその廃人になるか死体になった育ての親にご対面て事になるわけだ。」
「…なるほど」
「結局“皇太子の身代わり”として危険の中に取り残されたか、跡取りとしてとりあえず生存させておくためだけに劣悪かもしれない環境に放り出されたか、周りから取られた処遇は違っても、周りの都合で自分の意志なんて二の次で扱われてるなんていうのは、あいつも俺も変わらねえ。周りに必要なのは結局国を治めるための存在であって、フェリシアーノやロマーノっていうただのガキじゃなかったんだ。そんな中で、“王子”じゃなくてただのガキとして愛情注いでくれたのが、フェリシアーノにはお前の兄貴だけだったんだろうよ。俺の場合はそれがアントーニョなんだけどな。だからアントーニョに何かあるってのは、お前の兄貴亡くした時のフェリシアーノみたいな気持ちを俺が味わうって思ったんだろ。だからあいつは決断したんだ。それだけお前の兄貴が失ったらつらい大事な存在だったんだろうよ。お前の兄貴なら死んでも良くて、あのガキは助けないとって思ったわけじゃない。」
「そう…なのか」
ルートヴィヒがようやく膝から顔をあげる。
「…ったりめーだ!何年あいつの側についてるんだ!それくらいわかりやがれ、ボケっ!」
「…ああ…そうだな。俺は自分を見失って、あいつをちゃんとみてやれなかったらしい。すまん。」
「…俺に言うなよ。いつもヘラヘラ笑ってるやつがメソメソしてるなんざうっとおしくてしかたないんだから、さっさとなんとかしてこい」
「ああ、皇太子殿下、感謝する!」
ルートヴィヒは立ち上がって部屋へ入って行った。
「あ~あ、リア充爆発しやがれ。…どっかに可愛いベッラでもいねえかなぁ…」
それを見送ったロマーノは、頭をかきながらそうつぶやくと自分も立ち上がり、そろそろと全員集合しているであろうアントーニョの寝室に足を向けた。
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