「あ~ホントに来ちゃったんだ。もう面倒くさいなぁ…」
塔内にいたのはほとんど魔術師で、詠唱の時間を与えずになぎ倒すアントーニョとルートヴィヒによって、次々と倒されて行った。
そして辿り着いた大きなドア。
バン!とこれも蹴破ると、そこにいたのはアーサーを連れ去った三男ウィリアム。
敵襲というのを聞いていないのか問題にしていないのか、プティフールやサンドイッチののった三段重ねのトレイを前に優雅なティータイムの真っ最中だった。
「自分…何やっとるん?戦う気ないん?」
イラっとハルバードを構えるアントーニョにウィリアムは一瞬チラッと視線を向けたが、すぐまたカップに視線を戻す。
「アフタヌーンティーの時間だし?ああ、でも少しは足止めしたっていう形跡くらいは残さないといけないのかな?」
「形跡だけで…いいの?」
きょとんと首をかしげるフェリシアーノ。
「うん、いいの。別に今回何も命じられてないし。なんで言われもしないのにティータイム中断してまで働かないといけないわけ?」
と、当たり前のように言いはなつ。
「き…きさまぁ!!そんな怠惰な事でどうする!!人間日々絶え間ない努力をしてこそ…」
「ルートは黙ってて!!」
何故かそこでその態度にキレるルートヴィヒを、珍しく厳しい声でフェリシアーノが制する。
「ね、ものは相談なんだけど…」
「ん~?」
「一応足止めしてるって事実があればいいんだよね?」
「うん、まあ何もしないで素通りさせたらさすがにまずいかなぁとは思うから、とりあえず…1時間くらいお茶でもしてく?」
「うん。俺が足止めされるから。それでいいかな?俺お茶菓子とか作るのも上手だよ」
「おい、何を言っているんだ、フェリシアーノ!そんな危険な事させられるかっ!」
ニコニコと提案するフェリシアーノと焦るルートヴィヒ。
当のウィリアムは興味ないようで、
「あ~、それならスコーンでも焼いててよ。そこキッチンね」
と、続きの間を指し示す。
「で、戦いたいならお茶飲んでからなら相手してあげるけど?」
と、さらにつけたすが
「ううん。無理して戦わなくてもいいや。じゃ、キッチン借りるねっ!」
とフェリシアーノは答えて
「俺は大丈夫だからっ!ルート達は先に進んでっ!!」
と、部屋のドアからアントーニョとルートヴィヒを押しだした。
ウィリアムの部屋を横断して、またひたすら魔術師達をなぎ倒しながら階段をかけあがる。
心持ち警備が武闘派っぽくなってきたのは気のせいではないだろう。
「次はあれやんな?」
「まあ…順番からするとそうだろうな」
目の前に見えてきた扉。
バタンと開けると、いきなりビュン!と棒が突き出された。
「うあっ!自分、杖そんな風に扱っていいん?」
これがフランシスが言っていた、杖で殴ってくるというやつだろう。
「うるせえ!NOUKINなてめえらに合わせてやってんだろうがっ!感謝しやがれ!!」
言いながらも赤毛の男、アイルは棒を突き出してくる。
ほとんど棒術のノリだ。
「そうか…では俺が相手をしよう。どうせなら同じ武器を用意願えれば嬉しい。でないと優劣がはっきりつかないからな。」
ルートヴィヒの言葉に、アイルはにやりと笑った。
「ほお?なかなか話がわかるじゃねえかっ。そうだよなっ、男なら生まれながらの能力なんかに頼らず、自分が鍛錬して鍛え上げた肉体で勝負だよなっ!」
「同感だ。」
と何故かこちらも嬉しそうなルートヴィヒ。
「あ~…じゃ、親分先行くで~」
NOUKIN二人が楽しげに戦っている横を、アントーニョは駆け抜けた。
警備を倒して倒して倒して…何十人か何百人か目の警備の杖をなぎ払ったところで、バキン!とハルバードが折れる。
ここ数年ずっと戦場を一緒に駆け抜けた相棒をアントーニョは迷いなく投げ捨て、背中の大剣を振り上げた。
絶対に…何を投げ捨てても絶対にあきらめない!
アントーニョはそう決意してまた塔を登る。
小さな傷はあちこちに出来たが、足が動くうちは気にならないし、気にしない。
倒して倒して登って登って…体力には自信がある方だが、さすがにきつい。
「あ~、これ終わったらちゃんとまた鍛錬せなあかんなぁ…」
誰にともなくつぶやいて、疲労から意識をそらす。
息も切れ、少し酸欠気味な気もするが、足は止めない。
アーサーを取り返したら二人で少しシェスタでもしよう。
それからアーサーのためにエンパナーダとトマトとモツァレラのサラダ、それにチュロスを作ってやって、とびきり美味しい紅茶を淹れてもらうのだ。
ああ…見えた!!
おそらく最上部の扉。
バン!と思い切りよく開けた瞬間、目に入るのは宙に浮いたまま眠っているアーサー。
そして……
パン!と何かがはじける音がして、その体が落下していく。
その下には恐らく地上まで続いた穴。
「あかん!!!」
迷うことなくアーサーに向かって手を伸ばしたまま、一緒に落下していく。
伸ばした手が細い腕に触れる。
ああ…やっと取り戻した…。
疲れも死への恐怖もなにもかもがかすむような幸福感。
「もう離さへん」
アントーニョはアーサーを力いっぱい抱きしめた。
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