kmt 狙われやすい少年について
思えば両親、特に母は義勇にとっての防波堤、高い防御壁だったのだと思う。 それが父と共に一度になくなって、義勇は一気に身の危険にさらされている。
なし崩し的に助勢をすることになってしまったが、少なくとも自分は現場責任者ではあっても総責任者ではないはずだ。 自分をまきこんだ責任者にもそれなりに動いてもらおう。 錆兎はそう判断して、その場で真菰に電話をかけて、義勇に凸されてから今までの流れを説明する。 そのうえで言った。
ホームにつくとまず目に入ってくるのは甘露寺の派手な色合いの髪。 その横には当然のように伊黒が立っている。 そうして心配そうな表情の甘露寺の視線の先をたどると、ホーム中央あたりにあるガラス張りの待合室の椅子で泣いている少年。
さて、何から手を付けるべきだろうか…… 冨岡弟、もとい義勇を車で自宅に送ったあと、錆兎はオフィスに戻って少しだけ仕事を片付けて、いつもよりもだいぶ早めに自宅マンションに戻った。
──姉さん、ただいま~ 錆兎さんのオフィスから車で家の前まで送ってもらって、義勇がドアを開けて玄関を入ったら見慣れぬ男物の靴があった。
あれから錆兎さんに連れられて、彼が友人達と一緒にやっている会社のオフィスに行ってきた。 都心のど真ん中とは言わないが、まあそこそこ栄えている都市の駅近の立派なビル。
(…真菰のやつ…これ、俺が放置で逃げられないとわかって面通ししただけであっさり引いたんだな…) 錆兎は大きくため息をついた。
初っ端にいきなり全てを断ると拒否された時は厳しい性格の人なんだと思ったが、今こうしてみるとこの人はずいぶん優しい人なんだなと思う。 暑いところで話をするのに、自分の分だけじゃなくて押しかけて迷惑をかけている義勇の分まで当たり前に飲み物を用意してくれて、さらに飲むのが遅い義勇のため...
こうして連れていかれたのは大学の中庭だ。 まだ若干暑いのもあって人気はなく、込み入った話をしても聞かれないような場所である。 ただパラソルで直射日光はさえぎられているが暑いには暑い。
気分は決死隊だった。 これがダメなら取れる選択肢は二つだけ。 姉を犠牲にするか自分が犠牲になるか…だ。 だから内向的で人見知りの義勇にとっては本当に大学の方に行くだけでありえないくらいの行動だった。
とある週末、真菰さんの従兄弟に会うことになった。 その前日も父方の伯父から姉に従兄と結婚すればいい、そうすれば未成年の義勇ごと保護してやれるという電話が来ていた。
こうして八方塞がりに思えた現状を打開するきっかけをくれたのは、姉の大学の友人だった。 姉と同じようにいかにもお姉さんといった感じの優しくきれいなその人は、義勇の高校のクラスメートの胡蝶しのぶの姉だったらしい。
やるということと出来るということの間には大きな違いがある… 一所懸命にやったからと言って、必要な結果にたどり着くとは限らないのだ。
人生何がどう転ぶかわからないものである。 例えば今こうして飲み物を勧めたのは、あまりの会話のなりたたなさに、一息入れるだけのはずだった。
目の前の少年は綺麗な青い目をしていた。 正門で錆兎を探していた時にはかろうじて目のふちに踏ん張っていた透明な雫が、今は宝石のような青から形成された水晶のように溢れ出て、白い頬を伝ってころんころんと零れ落ちている。
「ということで、おそらく事情はおおかた伝えられて知っていると思う。 念のため、ここに来たのはカナエの妹のしのぶから姉が暴走していると思うから助けてくれと言われたからだ。 だが、真菰がここにいると言う事で、俺に何かさせようと思っているのだろうと言う事は今察した。 それがカナエのいう...
集合場所はかつて知ったる胡蝶家だった。 以前は両親と姉妹で住んでいた一軒家には今は姉妹のみが住んでいて、隣の診療所は悲鳴嶼…いや、そのバックにいる産屋敷家が手配した医師が姉妹が医師になれるまでという限定で働いている。
──義勇さんにですね…権威ある男性を捕まえさせようと思ってしまったらしいんです。 ──はあ??? カナエの思考がぶっ飛んでいるのは今に始まった事ではないのだが、何故そう思って、どこまでやるつもりなのかがよくわからない。
──姉さんの友人で冨岡蔦子さんと言う方がいらっしゃるんですが…… いつもはっきりした性格のしのぶには珍しく、少し考えこみながら口を開く。
──実は姉さんが厄介なことに首をつっこんでいまして…… 大学の中庭のベンチの下、ペットボトルの紅茶を両手で持ちながらそういうしのぶは可愛い。 幼馴染の欲目を抜いても、一般人の域を軽く超えた可愛らしさだ。