「ということで、おそらく事情はおおかた伝えられて知っていると思う。
念のため、ここに来たのはカナエの妹のしのぶから姉が暴走していると思うから助けてくれと言われたからだ。
だが、真菰がここにいると言う事で、俺に何かさせようと思っているのだろうと言う事は今察した。
それがカナエのいうところの”権威のある男”を紹介しろということなのか、あるいは俺自身に後ろ盾になれということなのか、他の何かなのかはわからんが、全て断る。
カナエ達の父親が亡くなった時はカナエは小学生、しのぶは幼稚園児だった。
そんな幼い子どもを二人も連れて母親が一人で親族に立ち向かうのは厳しかっただろう。
だが、冨岡姉弟の場合、姉は成人済み。弟はあと数か月で成人で、しかも男だ。
弁護士を入れるなり、ひどい場合は警察に相談するなり、自分でなんとか出来る年だろうし、それが無理なら資産をまとめて逃げればいいだろう。
はなから無関係の第三者の善意に頼ろうとする姿勢は個人的には好きではない。
男なら、男に生まれたなら、むやみやたらに他人を頼るより自力で判断して前に進めばいいと思う。
それを自分の趣味や自己満足で振り回す真菰も悪い。
中途半端にかかわって相手の人生に責任を取れるのか考えろ。
カナエもだ。
お前がまず守るべきは妹だろう。
その妹に心労を与えるようなことをするな!
以上。
俺は帰るぞ」
それだけ言うと、錆兎は座りもせずにくるりと反転。
斜め後方に立っていたしのぶにだけ
「これだけ言ってまだ真菰があれこれ画策してカナエが暴走するようなら、俺も祖父に報告するなど、真菰に対して断固とした措置を取るからまた連絡してくれ。
今回はお前には心配をかけることになって色々申し訳なかったな」
と、優しい笑みを浮かべながら声をかけると、そのまま胡蝶家を後にした。
当然、その言葉は同じ部屋にいた真菰にも聞こえていただろうから、少なくとも真菰はこれ以上バカなことはしないだろう。
彼女は祖父である鱗滝左近次を誰よりも敬愛している。
そちらに介入されるくらいなら絶対にやばいことはしない。
これで全てが解決だ。
少なくとも錆兎はそう思っていたのだが、真菰が止まったとしても、錆兎としては建設的だと思った解決法を示しても、ことはそう簡単には終わらなかったらしい。
胡蝶家に行った翌日…いつものように大学で講義を受けて帰宅しようとした錆兎は、いきなり後ろから引っ張られて立ち止まった。
そして斜め後方から自分の服の裾を掴んでいる相手をちらりと確認して……小さくため息をつく。
普通なら振り切って立ち去るところだが、その行動性であるとか、半泣きの表情であるとか、なにより醸し出す雰囲気がなんだかいとけない子どものようで振り払えない。
そしてあきらめのため息。
──冨岡義勇…だったな。ここは人の行き来が多くて迷惑になる。移動するぞ。
と、声をかけると、服の裾を掴ませたままさっさと先日のしのぶのように大学の裏庭のベンチへと誘導した。
途中…もう習慣のように自販でミルクティとストレートティをそれぞれ1本買った上で…。
一人っ子ではあるが4月生まれで月齢が高かったため、同学年でずっと周りの面倒を見続けてきたり、祖父がやっていた道場でやはり周りの面倒を見続けてきたこともあり、錆兎は自分が思っているよりもずっと、頼ってくる人間に弱い。
無自覚なので避けようもなく……今回もまたきっぱり断っておきながら巻き込まれることになるのだが、この時はとにかく用件を聞いて断ろうなどと甘いことを考えていた。
本当に甘い考えだったのだが、彼は本当にここで話を聞いて終わる、そう信じていたのだった。
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