とある狙われやすい少年について_17_逃走_義勇視点

──姉さん、ただいま~

錆兎さんのオフィスから車で家の前まで送ってもらって、義勇がドアを開けて玄関を入ったら見慣れぬ男物の靴があった。

この時点で思い切り嫌な予感がしたが、案の定、
「「「おかえり~」」」
と迎えに出て来た面々を見て義勇は硬直した。

姉…は、まあいい。
というか、居るのが当たり前だ。

しかしその姉の横でにこやかに出迎える人物に義勇は顔をひきつらせた。

──真一叔父さん……

姉の隣には見覚えのある中年男性。
母の弟の真一だ。


父方の親族の諸々で真一の手を借りたくはないとは言ったが、姉はそれを単に自分達の手でなんとかしたい…あるいは、母方の親族が出てくれば余計に揉めるからと義勇が考えたのだという認識なのだろう。

幼い頃から自分達に好意的な母方の叔父を義勇が避けたがっているとは夢にも思っていないようだ。

「蔦子ちゃんから聞いたよ。
お父さんの方の親族の対処を自分でしようと思っているんだって?
自分で努力しようとするのは立派だけど、大人を頼った方がいい場合もある。
全部頼りきりが嫌なら、必要な部分だけでも叔父さんに任せなさい」

と、とても優し気な笑みと共に伸ばされる叔父の手をするりと避けて、義勇は
「ごめん、宿題の事で友達に確認しないといけないからあとで」
と、大急ぎで二階への階段をかけあがって自室に飛び込む。

姉が居るから追いかけてはこないだろう。
だが義勇が行くまでリビングで待っているだろうし、姉はどちらかと言うと叔父に頼りたいと思って報告したのだろうから、丸め込まれたら終わりだ。

鍵がかからない部屋なので音がしないようにそっと本棚の本をいったん出して軽くなった本棚でドアをふさぎ、また本を戻す。

こうすれば入って来られることはないと思うが、ずっとこうしているわけにも行かず、義勇は途方にくれてしまった。

とにかく逃げるしかない…。
靴は玄関だが、幸いにして今日はもし土足厳禁の場所で話を聞いてもらうことになったらと思って、持って帰った上履きがカバンの中にある。

本来外履きではないのだが、裸足よりは断然ましだろう。
そう思って、義勇はそれを履いて窓から木を伝って外へと逃げ出した。

そうして庭に下り立ったタイミングで義勇は気づいた。
携帯と定期は持っているが、財布を部屋に忘れてしまった。

でも降りられても登れない。
取りに戻るにはもう一度玄関から入るしかないが、それも出来ない。
そもそも部屋のドアを外から開けられないように本箱でふさいだため、一人ではドアを開けられない。

うわぁぁ~~!!
と、頭を抱えたが、こうしている間に逃亡したことを悟られたら厄介だ。
義勇は仕方なくそっと家を出て外へと逃げ出した。

だが、逃げたは良いがこれからどうする?
金がないのでコンビニに退避することさえできないし、マックもいけない。

今手元にある定期とスマホで何ができるだろうか…

とりあえず追ってこられたときのことを考えると、この近辺には居ない方がいいだろう。
そう思って義勇は迷わず駅にむかった。

そうして自宅の最寄り駅からも離れた方がいいと思い、電車で学校の最寄り駅へ。

幼稚舎から大学まで一貫の学校の最寄り駅なこともあってそこそこ大きく、ホームにはガラス張りの待合室があるのもありがたい。

その待合室内の椅子に落ち着くと、義勇ははぁ~っとため息をついた。

逃げてきたのは良いが、この先どうしようか…
内向的で社交的ではない義勇には、こういう時に頼れるような友達もいない。

駅だって24時間開いているわけではないから、終電になったら出されてしまうだろうし、これからどうしよう…

少し落ち着いてくると、一気にそんな諸々が脳内に浮かんで心細さが押し寄せてきた。

ついこの前まで優しい両親と姉に囲まれて幸せにくらしていたはずなのに、今は身を寄せる場所すらない。

心細くて思わず涙があふれてきたが、それでも頼れる相手すら居ないことでまた悲しくなって、義勇は溢れて止まらない涙を昼間に借りた青いハンカチで拭ったのだった。







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