気分は決死隊だった。
これがダメなら取れる選択肢は二つだけ。
姉を犠牲にするか自分が犠牲になるか…だ。
だから内向的で人見知りの義勇にとっては本当に大学の方に行くだけでありえないくらいの行動だった。
門を出てくるのは私服の大学生がほとんどだが、一貫校で兄弟姉妹で通っている学生も少なくはないため、兄や姉を待つ高校や中学の制服の人間もちらほらいなくはないし、なんなら親しい先輩を待つ後輩とかも中にはいるだろう。
だが義勇は違う。
上級生に知り合いなどほぼ居ないし、姉の蔦子は違う大学だ。
周りにはそんなことがわかるはずもないということはわかっているのだが、ただ1度会っただけの大学生をアポなしでつかまえるために図々しく居座っている自分がいたたまれない。
それでも断念するという選択肢はなかった。
姉さんの安全と平和のため…その一念で義勇は救い主を待ったのである。
そうして待つこと30分ほど。
ついに彼が現れた。
見過ごしてしまったらどうしようかと思っていたのだが、そんな心配はかけらもいらなかった。
彼はなにしろ目立つ。
長めの宍色の髪を風に翻し、どこか獅子とか竜とか力強い生き物を思わせる圧倒的な存在感を放ちながら歩いている。
背も高いし体格も良く、そのうえで背筋がピンと伸びているので、かなり大きく見える。
周りの人間がどこかちらちらとそちらに目を奪われているのは絶対に気のせいではないと思った。
だって義勇だって彼が視界に入ったとたん、目が離せなくなっている。
しかし声をかけないと…と思うのだが圧倒されて声が出ない。
あ…行ってしまう…だめだ…姉さんのために頑張らないとなのに……
そう思ってなんとか駆け寄ったのだが、やっぱり声が出ず、でも行ってしまわれたら困るので、思わずいきなり服の裾を掴んでしまった。
そこでぴたりと止まる足。
ゆっくりと振り向いて見下ろしてくる綺麗に澄んだ藤色の瞳。
その目が彼の服の裾を掴む義勇の手で止まって、上からため息をつかれた。
ああ…だめかもしれない。
お願い事をするのにこんな失礼な態度では、聞いてもらえるものも聞いてもらえないだろう。
それでなくても一度助力を断られているのに……
そんな風に思うと目が熱くなってきて、視界が潤み始める。
でもかろうじてここで泣いてはいけない、余計に迷惑に思われて全てが終わる!そう思ってこらえていると、もう一度聞こえるため息。
今度こそ見限られるか…と義勇はビクリと身を震わせたが、振ってきた言葉は
──冨岡義勇…だったな。ここは人の行き来が多くて迷惑になる。移動するぞ。
だった。
セーフ!
首の皮一枚で切り捨てられていないようだ。
彼はそう言いつつ義勇に裾を握らせたまま、たった今出てきたばかりの大学の門をまた戻っていった。
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