──義勇さんにですね…権威ある男性を捕まえさせようと思ってしまったらしいんです。
──はあ???
カナエの思考がぶっ飛んでいるのは今に始まった事ではないのだが、何故そう思って、どこまでやるつもりなのかがよくわからない。
ぽかん…と呆ける錆兎に、しのぶはまた眉間に片手をやって、小さく首を横に振る。
「父の時のことが頭にあるんだと思います。
母は父と共に診療所を回していて、そんじょそこいらの男よりも優秀だったのに、男の父が居ないとなったら親戚が押しかけてきて、なのに医師でもない遠縁の悲鳴嶼さんが介入したら途端に手のひらを返したように大人しくなったので。
だからと言って発想が宇宙すぎですけど…」
「いや、あれは……」
話を聞いて錆兎もため息。
「えっとな…お前達は知らないかもだが…」
「……なんです?」
「あれは男だったからじゃなく、悲鳴嶼さんだったからで、もっと言うなら悲鳴嶼さんの後ろに控えている親しい知人である産屋敷財閥の当主が居たからだ」
「え??産屋敷財閥って…うちの学園の??」
「そう。うちの母方の爺さんも良く知っている人なんだけどな。
大学の理事長も務めている産屋敷耀哉という人物だ」
「え…そうだったんですか?」
と、目を丸くするしのぶに錆兎は苦笑して、し~っというように唇に人差し指をあてた。
「これ、内緒な?
自分が所属する場所のトップと知り合いだということが広まると、あまり良いことは起きないから…」
「えっと…でも高等部時代は毎回全国模試の順位が一桁で剣道の全国大会優秀者とかの兄さんを理事長だって忖度する意味ないと思いますけど…。
むしろそのまま国立行かないで上に上がってきてくれてありがとうというところじゃないですか?」
「いや、そうはいっても色々な事考える人間が居るからな。
面倒ごとになる可能性は排除した方がいいだろう?」
「それはそうですが…」
と、納得いかなさそうな顔のしのぶに苦笑。
錆兎は
「今話さなければならないのはそこじゃないだろう?
とりあえずその弟のことだな。
権威ある男をつかまえさせるってどういうことだ?」
「文字通りですよ。
そういう男性の気をひけるようにしようと…」
「ちょっと待て。
それ、恋愛とかそういう意味でか?
それなら姉の方が適任だろう?」
「…女性だと身売りみたいになっちゃうからと…」
「いや、男だって同じだろ」
「蔦子さんは姉の友人ですから。
姉の中では彼女にそういうことをさせるという発想がそもそもありません」
「…弟だったらいいのか?」
「妹だったらなかったかもしれませんが…」
「…カナエはそういう趣味の人間だったのか?」
「いえ、違うと思いますけど…。
なんというか義勇さん、顔だけは綺麗で、性格は幼女味にあふれているので、そういう相手に保護されるのが似合いそうとか思ってしまったんだと思います」
「………」
混乱する錆兎に申し訳なさそうに眉尻を下げるしのぶ。
「とにかく…冨岡姉弟がどうのというのをおいておいてですね、姉的にまずいのが、義勇さんは早生まれで成人前なので…」
「あ~、未成年者なのか。
それはそういう誘導はまずいな」
「なんです。
良識とかそういうのを全て放り投げていても、とりあえず犯罪にならない範囲ならもう放置するんですけど、これはまずいと思うんです」
「そうだなぁ…。
というか、そうか…成人してしまえば逆に後見人とか要らないんだから親族が来てもきっぱり無視すればいいんだよな。
しのぶたちの時と違って子どもじゃないし、家業みたいに引き継がなければならないものがないなら…」
「そういう意味では特になさそうですが、とりあえず2月8日まであと半年ほど、親族と姉から義勇さんを保護しないと我が家もまずいことになると思うので…とりあえず錆兎兄さんが相談に乗ってくれるということで姉さんに言えば、冨岡姉弟と集まる場を設けてくれるはずです」
「わかった。
それまでに色々調べることは調べておきたいから、冨岡姉弟について差しさわりのない範囲でいいから情報をおくっておいてくれ」
「ありがとうございます!了解いたしました」
この最後のやりとりでずっと難しい顔をしていたしのぶがようやくホッとしたように笑顔をみせた。
彼女の事は本当に幼い頃から知っているだけに、この安心しきった笑みを見せられてしまうと、錆兎の中でもこの面倒な案件を放り出すという選択肢がなくなってしまう。
末っ子は悪気なく無意識にずるいよなぁ…と心の中で苦笑しながら、錆兎はこれに関わる時間を作るために絶対に自分自身でやらなければならないこと以外を誰に振るかを脳内で計算し始めた。
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