とある狙われやすい少年について_15_理解と諦めと覚悟

(…真菰のやつ…これ、俺が放置で逃げられないとわかって面通ししただけであっさり引いたんだな…)
錆兎は大きくため息をついた。

錆兎は昔から他人よりも色々出来るお子様だった。

錆兎を育てた母方の祖父である鱗滝左近次は、そんな普通に様々な才能がありすぎる錆兎が驕った人間にならないようにと、幼い頃から言って聞かせたのである。

「お前の優れた能力はお前だけのものではない。
神様が他人よりも優れた分の能力で他人を助けるようにと与えてくださったものだ。
だからお前はその恩恵を困った相手のために使いなさい」

そのため、三つ子の魂百までも…で、錆兎はいわゆる”可哀想”だったり”困っている”人を見過ごすのが苦手な人間に育った。

もちろん世の中の人を全員救うわけにも行かないので、その中で自分が本当に助けの手を必要としている人間かどうかの判断もして、取捨はしている。

単に両親を亡くして相続した遺産を親族に狙われている大学生と高3の姉弟というだけなら、弁護士に丸投げ案件だと判断した。

なのでここでもう一度自分が介入するよりは資産があるなら良い弁護士を紹介してやるからそちらに頼んだ方が確実だとわかりやすく説明をしてやって終わりだと思っていた。

…が、今、悲壮な顔で訪ねてきた弟、義勇の話を聞く限り、状況はもう少し複雑なようである。

自分は最悪学校をやめてでも逃げて消えるから姉だけでも…と言う少年、義勇。

でもどう見てもひとりで雄々しくやっていけるタイプには見えない。
むしろ姉の方がしっかりしている印象だった。
両親としっかり者の姉に可愛がられて育った末っこ…というのを通り越して、なんだか今は飼い主を亡くしたか飼い主から捨てられた家飼いの子猫のようなオーラーをまき散らしている。

本当にやめてくれ。そういうタイプの人間に弱いんだから…と、錆兎はもう天を仰ぎたくなった。

他の人間よりは多少は色々出来て、割合と人助けとかもするようにはしているが、錆兎にだって錆兎自身の人生があるのだ。
自らの身を立てるための諸々に費やす時間だって必要なのである。

だから極力必要な時以外はそういうことに関わらないようにはしてきた。
関わってしまうと見捨てれば自分に精神的にダメージが来る。

そう、よしんばライバルや敵が百人大挙して来ようとなんとか蹴散らせるとは思うが、義勇のようなタイプの人間が数人いたら自分の人生は終わってしまうだろう。
錆兎はそう断言できる。

だからこそ関わりたくなかったのだが、手遅れらしい。
自分は半泣きで自分のことはいいから姉だけでも助けてくれと言う子どもを突き放せるように育ってはいないのだ。

しかも…おそらく、おそらくだが、母方の叔父が面倒な感じで絡んでくる気がする。

父方の親族だけなら弁護士を使って追っ払えばそれでいいと思うが、母方の叔父という人間は明白な迷惑行為をしてくるわけではないようなのが厄介だ。

資産を狙うわけではない。
姉は良い人だと思っている。

だが、弟の側には”姉には言えない”信頼できない、近づきたくない理由が相手との間にある。

そう、この”姉には言えない”というあたりが重要だ。

自分のことは見捨ててもいいと言いつつ、頼ればおそらく頼らせる気満々であろう叔父に近寄りたくない理由が、弟の方にだけある。

姉は頼ろうとしていたが…という話が出た時点で予想して、念のため弟側が頼りたくない理由を姉は知っているのか?と聞いたら知らないというあたりで、錆兎は色々察してしまった。

姉にとっては実害はないが弟にはあって、外部に言うのがはばかられる理由…その時点でまあ想像はできてしまう。

となると、叔父はむしろ介入したがるだろうし、なまじ義勇が未成年だけに親族でもない完全な他人が彼を囲い込むような事をするのは難しい。

何かそうしても不自然ではない関係を作らなければならない。

…ということで、手は一つだ。

義勇と雇用関係を結ぶ。
雇用主として従業員に対してある程度の介入をするならおかしくはないだろう。

幸いにして錆兎は起業しているので立場的には可能だ。
義勇が何ができるのかはわからないがとりあえず雇用だ。

錆兎は義勇にバイトとして雇う旨を伝えて了承を得ると、契約のために大学を出てオフィスに向かうことにした。







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