白銀の童話
黒い影 「フランシス…また性懲りもなく護衛雇ったんだって?」 大臣の執務室でアントーニョを見送ったあと、一人の人影がひっそりとドアから部屋の中へと忍び込んだ。
「あ~、やぁっと目、覚めたか。何か食べられそうか?」 薬を飲む前に何か食べさせた方が良い…今から食べ物を持ってきてもらうことなど望めないが、テーブルにフルーツならあるから…と、素早く考えを巡らせながら言うアントーニョの言葉に、アーサーは少し視線を伏せた。
エンジェル 寒い…と、眠っていてもなお悲しいくらい小さな声でそう呟いて身を震わせるアーサーは、それでもアントーニョが冷たい手を額に当ててやると、少し気持ち良いようで、眉間に寄せていた皺がなくなる。
回想 熱くて…でも寒い。 そんな不快感を補うように、冷たくて温かい物が与えられる。
熱 「アーサー、起きとる?」 コンコンと軽くノックをしても返答がないので、アントーニョはソッとドアを開けてアーサーの寝室へと足を踏み入れた。 灯りの消えた部屋の中で、ほぼ手探り状態でベッドに近づく。
愛し子 年相応の楽しげな様子に若干安心しつつもアントーニョが種を植えた植木鉢を冷気にさらされないように室内に並べ終わった頃にはもう日が傾いていた。
トマト 「あ~、俺ええもん持っとったわっ!」 何か楽しみに思えるキッカケになる物はないか…と思った時に、アントーニョは自分が常に持ち歩いている種の事を思い出して、部屋へ飛び込んだ。 そして自分が着てきた服のポケットを漁る。
決意 「取り乱してすまなかった…。お前が悪いわけじゃない。 ただ…本当に俺を守る必要はない。」 しばらく泣いた後、アーサーは落ち着いた…というよりも自制心が戻ったらしく、青い顔をしたまま微笑んだ。
爆発 アントーニョが隣室に行くと、テーブルの上には朝食が用意され、アーサーが自らカップに紅茶を注いでいるところだった。
ぬくもり 夢を見た…。 小さな子どもと過ごした頃の夢。
決壊 「やっぱり…捕まったのか……」 護衛として王子の部屋の続き部屋に一室与えられたアントーニョを迎えたのは、さきほどの少年だった。
交渉 「それで?お前は何者?…ああ、庭師などと言うやりとりはやめてね。俺は無駄なやりとりで時間を潰すのは好きじゃないから。」
疑念 アントーニョが寝ていたのはどうやら城の中庭らしい。 一面のバラ園を抜けて少年が向かったのは、城の裏庭。 そこはどうやら使用人達の宿舎があるらしい。
天使の牢獄 ぼ~っとした意識の中に入ってきたのは微かな痛みと良い匂い。 柔らかな布の感触の心地よさに思わず頬ずりをすれば、ビクリと頭の下の何かが身じろぎをする。
裏切りの夜 「ソッチに行ったぞっ!!逃がすなっ!!」 バタバタと追手の足音が通りすぎるのを確認すると、アントーニョはフラリと開いた空き家のドアから中に転がり込んだ。