青年のための白銀の童話 第二章_5

愛し子


年相応の楽しげな様子に若干安心しつつもアントーニョが種を植えた植木鉢を冷気にさらされないように室内に並べ終わった頃にはもう日が傾いていた。

「上手く育つといいな」
アーサーは植木鉢の前にしゃがみこんで、楽しげにそれを眺めている。
「大丈夫っ。俺は昔からトマト育てとるから。ちゃあんと美味しい実がなるまで育てたるわ。それよか、冷えてきたから暖かい格好し」

昼夜の寒暖の差が激しい国らしく、昼の暖かさが嘘のように夜は冷え込む。
だからアーサーはある程度までは室内で育てられるように室内でと申し出たらしい。

言われて初めて寒さに気づいたように、アーサーはクシュンと可愛らしいくしゃみをして、部屋の中央の方へと駆け寄ってくる。

「あ~、もう冷えてしもて…しゃあないなぁ。手、貸し」
アントーニョは氷のように冷たくなったアーサーの手を取ると、はぁ~と息を吹きかけて、暖かい自分の手でさすってやった。

昔あの子にやってやったようにしただけなのだが、目の前の少年は大きな目を限界まで見開いて、ぽかんと微かに口を開いて硬直している。

「…?……どないしたん?」
不思議に思ったアントーニョが声をかけると、アーサーの真っ白な顔が見る見る間に真っ赤に染まった。

「こ、子ども扱いすんなよっ!!」
慌てて引っ込められる手。

「何言うてるん。自分思いっきり子どもやん。」

おそらく大人に甘えた事もないのだろう。
ひどく戸惑ったような…人慣れない様子が可愛らしくて、アントーニョはそのピョコピョコ跳ねた金色の髪をクシャクシャと撫で回した。

「やめろよっ!ばかぁ!」
ぷぅ~っと頬を膨らませつつ、それでも離れて行かないところを見ると嫌ではないらしい。

素直でないお子様とのこんなやりとりは久々で、アントーニョもなんだか懐かしくも暖かい気分になった。


やがて大臣…フランの配下から届けられた夕食を食べ、ベッドに潜り込む頃には外はシトシト雨が降っていた。

あ~、今日のうちに種植えといて良かったなぁ~とぼんやりと思いながらアントーニョは目を閉じる。

久々に…本当に久々に暖かく安らかな気分だった。
もう数年も前に失ったあの優しい日々をまた始められるのかもしれない。
しかも今度は時を経ても自分のような身分の者を側に置くのは…などと、取り上げられる事もなさそうだ。

雨音はどんどん激しくなっていて、明日までに止みそうにない。
室内だとアーサーはおそらく刺繍に没頭してしまいそうだが、それも寂しい。
何か一緒にできることはないだろうか…などと、楽しい思考にしばしふけっていたアントーニョは、雨の音に雷が混じってきたことに気づいた。

(あ~…怖がってたりせえへんかなぁ…)
アントーニョが在りし日に可愛がっていた子どもは雷がたいそう嫌いだった。

しかし怖いと言えないので、よく枕を持って、
「お前が怖がってるんじゃないかと思って来てやったぞっ」
とアントーニョのベッドに潜り込んできたものだ。

まだそこまで親しいとは言えない仲ではあるので、一人でベッドの中で震えていたりしないだろうか…。

そんなことを考えて、アントーニョは自分のベッドを抜けだした。


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