黒い影
「フランシス…また性懲りもなく護衛雇ったんだって?」
大臣の執務室でアントーニョを見送ったあと、一人の人影がひっそりとドアから部屋の中へと忍び込んだ。
「あ~うん。だって必要でしょ?森の国と戦争なんて事になったらやっかいだよ?」
ノックもなく部屋に忍び込んだ人物に驚くこともなく、フランシスは影に椅子を勧める。
しかし影はそれをスルーして苛立った様子でフランシスを睨みつけた。
「必要じゃないよっ。護衛は要らない。彼は殺されることはない。何故なら…ピンチになったらちゃんと助けるからねっ。
いいかい?必要のない護衛を何人雇っても意味は無いんだ。その都度死人が増えるだけだよ?ナイトは二人は要らないんだ。」
その言葉にフランシスは少し目を細めて笑みを浮かべる。
「ああ…やっぱり前回の刺客はお前の仕業だった?まあお前のはいいよ、お前のは。
自分で飛び込めるタイミング測ってるんだろうしね。
でもアーサーを殺したいと思っている奴は少なくない。
その中で何かの拍子で本当に行動に起こす奴がいたら困るでしょう?
そのためにも護衛は必要だ。お前は一日24時間張り付いていられるわけじゃないだろ?」
フランシスの言葉に影は
「まあね…」
と不承不承うなづいた。
「ま、安心しなさい。護衛につけた男達には皆、暗殺者からの護衛と言う他に、アーサーが自発的に死にたくなるようにするって条件つけてるからね。お互い情が移るようなことはないだろうよ。」
その様子にフランシスがクスリと笑みをこぼすと、影は諦めたようにため息を付いた。
「OK。わかったよ。護衛は認める。でもアーサーが著しくそれで落ち込んでいるとか言う情報を得たら即俺に言ってくれよ?慰めに行きたいから。」
「はいはい。了解しましたよ、マイ・ロード。じゃ、おやすみ。お互い寝ないといけない時間だろ?」
「ああ、そうだね。用もないのに君の相手をしていても仕方ないし…。じゃあ頼んだよ」
と言うと影はさっさと部屋から消えていく。
パタン…とドアが閉まった瞬間、フランシスの顔から張り付けていた笑みが消えた。
「まあ…こんなもんかねぇ。今はまだ……」
フランシスは長衣の中に隠していた十字架を取り出した。
そして
「時が満ちたら…面白いモノを見せてあげるからね、ハニー」
と、つぶやくと、暗闇の中ニヤリと意味有りげなほほ笑みを浮かべ、その十字架にチュッと口付けた。
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