青年のための白銀の童話 第二章_3

決意


「取り乱してすまなかった…。お前が悪いわけじゃない。
ただ…本当に俺を守る必要はない。」

しばらく泣いた後、アーサーは落ち着いた…というよりも自制心が戻ったらしく、青い顔をしたまま微笑んだ。


出会ってからずっと自分の境遇に巻き込むまいと作る壁…。

他人に安らぎを与えようと自分の持つものを惜しみなく明け渡すくせに、他人にはそうさせまいとする子ども。
その距離感がアントーニョにはひどくじれったく感じた。

かと言ってずっと当たり前に否定され疎まれて育った少年には好意もストレートには届かない。

「必要なくても守りたいって思ったら……あかん?」
と言ってみたが、
「そういうの…傷つくからやめてくれ」
と、切り捨てられた。

嘘じゃないと言うのは簡単だが、おそらく余計に傷つけるだけな気がする。
どうしてやったら良いのかわからない。

それでももうこの子を守ってやりたい、癒してやりたいと思ってしまったのだ。
何もせずには居られない気がする。


ひどく気まずい空気が漂う中、すっかり冷めてしまった朝食を胃に流しこむと、アントーニョは許可を得て庭へ出ると、鍛錬に勤しんだ。

アーサーはその間、バルコニーに出て刺繍をしながら、時折その様子を物珍しげに眺めている。

しばらく庭で大臣に用意してもらった剣を振るったあと、アントーニョはふと思い出して聞いてみた。

「なあ、さっき言うてたフランて誰?」

『食事はフランが用意しているから…大丈夫だと思う』
確かアーサーはそう言っていた。

ということは…フランはアーサーに危害を加えない…味方なんじゃないだろうか…。
それなら彼と知り合いになれば、もう少しアーサーに心を開いてもらえるのでは?
そんなことを期待したわけだが、

「ああ、昨日お前を連れて行った大臣だ。王の甥で俺の従兄弟。
たぶん…だけど、俺が暗殺という形で死んで俺の母親の実家の国がこの国に攻めてくる大義名分を与えたくないんだと思う。」

というアーサーの言葉にがっくりと肩を落とした。

「それ…あいつが言ったん?」
と思わず聞くと、アーサーは
「いや。でもそんなところだろ。あいつが俺に肩入れする理由はないし。」
と、あっさり断言してくれる。

聡すぎる子どもというのも良し悪しだ。
まだ愚かだったら人生も少しは楽だっただろうに…。
もしくは…もう少し我慢強さがなければ……。

我慢…させたないなぁ……

普通に平気なフリをしているが、何かの拍子にすぐ決壊する涙腺を思えば、決して鈍いわけではないのはわかる。
むしろその逆だ。
好意以外の他人の感情は驚くほど敏感に察知する。

白い指先で器用に施されていく刺繍は綺麗な金色のドア。
アーサーいわく天国のドアなのだという。

「いつか…このドアをくぐるのが夢なんだ…」
真っ白な中ほのかに頬を薔薇色に染めて、新緑色の瞳が嬉しそうに細められる。

この世にすでに幸福を求める事を諦めて、神の御許に救いを求める…本人は幸せそうな表情だが、アントーニョはひどく悲しい気分になった。

生きているうちに…この世界に生まれた意味を…幸せを教えてやりたい。
あの細い背に白い翼が生えて天国への門をくぐる前に…。





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