生贄の祈りver.普英
「…悪い…ごめんな? こんなんでめちゃくちゃ嬉しいなんて俺最低な奴だよな。 本当に最低なんだけど…でも側にいてくれ。 放してはやれねえけど、欲しいモンあったら何でも手に入れてやるし、アルトが気になるなら俺が王の間はもう取らねえから。 もううちの国もでかくなってるし、そんな...
欲しくて独占したくて…でも愛おしくて傷つけたくない。 このまま自分が流せばアーサーは流されてくれるのかもしれないが…と、ひどく迷ったが、結局ギルベルトは 「アルト、お前、言ってる意味、言われてる意味、ホントにわかってるのか?」 吸い込まれそうに大きい澄んだアーサーの瞳を...
「…エリザに…生贄になりたいって言ったんだ…」 ギルベルトに抱きしめられたまま、どうする事もできそうにないので、アーサーは話し始めた。 「…生贄?」 ピクリとその言葉にギルベルトが反応する。
東の塔は驚くほど綺麗になっていた。 昔後宮として使っていただけあって、塔と言っても1階スペースは広く、上に伸びた塔の部分はどちらかというと展望スペースのようなサンルームになっていて、天気の良い日に海を見渡しながらティータイムを楽しめるような造りだ。
「あんたいい加減にしなさいよねっ!国王でしょっ! どうしても自由になりたければ保険の一人でも作ってから好きにしなさいよっ! ルートはいても、何かあったり子どもが生まれなかったりしたら血が途絶えちゃうんですからねっ」 片手を腰に当てて片手でピシっとギルベルトを指さすエリザの様...
「話…できんのか?つか、俺が来てるってわかってのか?」 数日後…鋼の国の城についたロヴィーノは、案内されたギルベルトの私室のリビングで、ギルベルトに抱えられるようにソファに座った…というか、座らされたギルベルトを見て、驚いたように目を見張った。
あの日と同じ…いや、あの日より状況は悪いのだろうか…。 最後にアーサーの姿を確認したのは2時間ほど前だ。 せめて飛び降りてからそんなに時間がたってなければいいのだが……。
「部屋は?荒れてた?」 途中エリザがきいてくるのに、ギルベルトは首を横に振った。
事件が起こったのはそれから3日後の夜だった。 その日もギルベルトは大あくびをしながら、ランプを片手にそ~っとアーサーの部屋のドアを開けた。 風邪で寝込んで以来、ギルベルトがベッドを離れる事を許さないため、アーサーがたまに人目のなくなった時間にこっそり起きているからだ。 ...
「ロヴィが来るって?いいぜ?なんか美味いモンでも用意してやれよ」 アーサーの状態が少し落ち着いたようなので、通常の仕事に戻った一週間後、それでもアーサーの部屋で仕事をしていたギルベルトは、親書を携えてきたエリザに顔だけ向けてそう言った。
こうしてフェリシアーノの部屋で二人に経過を話すエリザ。 「ヴェー。俺が話してた時には思い切り信頼しちゃってて大丈夫かなって感じだったんだけど…」 不思議そうにするフェリシアーノ。 そこでルートが言う。
「少し…やつれましたね」 エリザはベッドのそばまでくると、それまでギルベルトが座っていた椅子に腰をかけた。
「ギル、ちょっとだけいい?」 コンコンとドアをノックしたエリザは、相変わらずアーサーの傍らについているギルベルトに声をかけた。
「エリザさん、どうだった?」 アーサーの部屋を辞したエリザが向かったのはフェリシアーノの部屋だ。 本当は本人が見に行きたいと騒いでいたのだが、フェリシアーノがアーサーの側によるとギルベルトの不機嫌度が増すため、あとで様子を伝えるからと、大人しくさせておいたのだ。 そうでな...
そんな会話を交わしていたエリザが去ったあと、ギルベルトは再びアーサーに視線を移した。 大きな宝箱は確かに言いえて妙だが、それに大事にしまうにはまず、この神様との綱引きに勝たなければならない。
「ギル、なんか思い詰めた顔してたわよ?」 エリザはそう言って椅子をひきずってくると、ギルベルトの隣に座った。
その小さな手は、時折どこか痛むのか苦しいのかわからないが、苦痛のために硬直する。 苦しげに寄る眉。 風邪だけではないと思うが、本人が一切苦痛を訴えないため、どこが悪いのかもわからない。 嬉しい、楽しいという気持ちは時折見せてくれるようになったが、アーサーは苦しい、痛いなど...
眠って起きたらまだ人の気配がした。 おそるおそる目を開けると、心底ホっとしたような目でギルベルトが顔を覗き込む。
西の塔の事件以来、ひどく体調を崩す事もなかったので正直油断していた。 朝からワタワタとしていて全く気に留めていなかったので気付かなかったが、元の自室に物を取りに行ったアーサーは部屋に戻った時には、もう具合が悪そうにため息をついていた。
「…じゃ、結局俺にとりいって来いって言われただけなんだな? 他にはなにも聞いてないのか?」 「うん。アーサーの存在もさっき会って初めて知ったよ」 とりあえず国の安全がはかれたと言う事で、素直に自分の身の上を語るフェリシアーノ。