生贄の祈りver.普英_12_8

「…エリザに…生贄になりたいって言ったんだ…」
ギルベルトに抱きしめられたまま、どうする事もできそうにないので、アーサーは話し始めた。

「…生贄?」
ピクリとその言葉にギルベルトが反応する。



「人質に戻ってぬるま湯で一人優しくされた日の事を思い出して泣くなら、いっそ生贄として天に召されたかった。」
「やめてくれっ!!それだけはやめろっ!!!アルトを手放すくらいなら、俺は神にだって剣を向けるからなっ!!」
そのアーサーの言葉にギルベルトが抱きしめる腕の力を強くする。

「絶対に他になんてやらないっ!行かせない!!
そのくらいならたとえアルトに憎まれたって、外からしか開かない窓の部屋作って、部屋のドアにも窓にも鍵かけて閉じ込めて一日24時間俺の側から離れられんようにしてやるっ!!
それで嫌われたって疎まれたってなくすよりマシだっ!!」

嫌われるのが怖くて拘束を緩くして失うくらいなら、嫌われても抱え込んだ方がいい…と、ギルベルトは本気で拘束部屋の建設を考え始めた。

「…俺がいなくなったら…いや、いても、新しい人質がきてギルが気にいったら、人質部屋に戻るのかなって思ってたから…」
ぽつりとこぼすアーサーの考えてもみなかった言葉にギルベルトはぽか~んと
「何…言ってんだ?」
とつぶやく。

アーサーは特別だ。本当に…初めて会った瞬間から唯一無二の存在になった。
アーサーの為にこの世の全てを捨てても、何かのためにアーサーを手放すなどありえない。

「ありえねえよ……。本当は外に出したくない…他のもの…それが例えだれだろうと…それこそエリザとだって口聞かせんのも嫌なくらいなんだぞ。
便宜上人質とったとしても、絶対に会わせたりしねえし、人質部屋のあたりなんてやらねえよ。アルトは俺だけのもんだ」

本当は誰にも見せないで閉じ込めておきたい…と、アーサーの髪に顔をうずめながら言うギルベルトの背にアーサーはそっと腕をまわした。

「…エリザの言ってた事…ホントだったんだな…」
「エリザが?」
「うん。」
聞き返すギルベルトにアーサーはうなづいた。

「ギルはホントは自分だけしか会えない場所に俺を閉じ込めておきたいんだって言ってた。
だから…どうせ生贄になるなら神様じゃなくてギルのための生贄になってやってくれって。
死んだ事にして今までの生活も身分も何もかも全部捨てて、ギルだけしか目に触れない場所でギルのためだけにいる…どうせ死ぬならそんな風に個を殺して生きないかって言われたんだ…。
それがなんで個を殺すって事になるのかわかんないままだけど…」

子供のような邪気のない大きな眼で見上げてそんな事を話すアーサーに、ギルベルトはおおいに戸惑った。

閉じ込めておきたい…それはまぎれもない事実で、自分の中でかなりを占める欲求ではあるのだが……この子はまだ子供だ。
エリザがどういう言い方をしたのかはわからないが、意味もわからず丸めこまれている可能性もある。


Before <<<    >>> Next (12月18日0時公開予定)


0 件のコメント :

コメントを投稿