苦しげに寄る眉。
風邪だけではないと思うが、本人が一切苦痛を訴えないため、どこが悪いのかもわからない。
嬉しい、楽しいという気持ちは時折見せてくれるようになったが、アーサーは苦しい、痛いなど、マイナスの状態は頑なに隠そうとする。
どうしたらもっと心を預けてくれるのだろうか…。
これまで他人に好かれよう、気を許してもらおうなどと意識した事がないので、本当にどうしていいかわからない。
ああ…もう、城の奥深く、誰も近づけない離れでも作って、そこに閉じ込めて、自分以外の人間を見られないようにしてしまおうか…。
天使のようなアーサーを閉じ込めるなら、天の御国を思わせるような綺麗な白い建物が良い。
館の周りを棘のある…でも綺麗な薔薇で囲み…そうだ、その薔薇が見渡せる位置にサンテラスを作って、天気の良い日はそこでお茶に出来るようにしても良い。
室内の床はアーサーを傷つけないように柔らかい絨毯。
壁にはアーサーの趣味の刺繍を飾っていくのもよさそうだ。
料理は小国時代の名残で自分もできるから、邸内にはキッチンも作って、時折自分で作った料理でアーサーの胃を満たしてやりたい。
そこでは国も何も関係なく、外の全てのモノから遮断して、アーサーは毎日自分だけを見ながら趣味の刺繍などに時間を費やし、自分と二人だけで過ごすのだ。
そこまで考えて、ギルベルトはハッとして小さく首を振った。
物理的にそうする事は可能だが、そんな事をしたら完全に引かれる。
他人事なら、ギルベルトとて、そこまでの執着は異常だと思うだろう。
それでも…と、ギルベルトはアーサーの柔らかな金糸の髪を梳きながら思う。
こうして触れるのは自分だけが良い。
笑顔も泣き顔も怒った顔も…全ての表情を見るのも自分だけで良い。
世の中すべてからこの子を遮断して、自分だけのものにしたい…。
その時ピタっと冷たい物が頬にあたって、ギルベルトは初めて自分の側に立っている人物に気付いた。
「ああ、エリザか」
頬に当てられた冷たい飲み物の入ったグラスを受け取って、ギルベルトは傍らに立つエリザを見上げた。
0 件のコメント :
コメントを投稿