生贄の祈りver.普英_10_7

眠って起きたらまだ人の気配がした。
おそるおそる目を開けると、心底ホっとしたような目でギルベルトが顔を覗き込む。


「おはよう、アルト。気分はどうだ?なんか食べれそうか?」

髪を梳く大きな手が気持ち良い。
温かさに胸がいっぱいになった。

優しくされるのは嬉しい。想われるのは嬉しい。
でもそれをもうすぐ失うであろう事を思うと、ただただ切ない。
こうして優しさをむけられるのがつらい。

口を開いたら泣き出しそうなので、グッと口を固く結んで、首を横に振った。
とたんにギルベルトの表情が曇る。

面倒な人間だと思われたのだろうか…。
じんわりと視界がうるんだ。

「どっか苦しいのか?それとも痛いのか?」
自分の方が泣きそうな顔でギルベルトが涙をぬぐってくれる。
その優しい態度にすら心が痛む。

「なんかしてやれる事ねえかなぁ…ほんと…代わってやれたらいいのにな」

今そうやってかけられる優しい言葉に、いつかそれが他に向かう事を思って、また涙がこぼれた。




アーサーといると、良くも悪くもいつも心が揺さぶられる。
熱を出して眠っているアーサーを目の前にして、ギルベルトはため息をついた。

いつも透けるように白い肌の中、頬と唇だけがうっすらピンク色なのだが、今日はどちらも血の気を失って青みを帯びている。

正直…怖い。
このまま目を開けなかったら…?そんな馬鹿な考えが頭をよぎり、起こして生きている事を確認して安心したい衝動にかられるが、せっかく休んでいるところにそんな事をして悪化させたらと思うとできなかった。

人間なんて放置していれば勝手に生きて行くものだと思っていたのだが、実際、自分の周りの人間にはそれは十分当てはまる事なのだが、この子に関してはそれが当てはまらない。

神様と綱引きをしている気分だ。
油断をするとたぶん連れて行かれる。
いや、油断しなくても連れて行かれそうだ。

「頼むから…連れて行かれないでくれな…」
熱を帯びてすっかり熱くなった小さな手を自分の額に押し当てて、ギルベルトはつぶやいた。


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