生贄の祈りver.普英_12_1

「ロヴィが来るって?いいぜ?なんか美味いモンでも用意してやれよ」
アーサーの状態が少し落ち着いたようなので、通常の仕事に戻った一週間後、それでもアーサーの部屋で仕事をしていたギルベルトは、親書を携えてきたエリザに顔だけ向けてそう言った。


「あんた…兄弟で差をつけるわよね…」
フェリシアーノに対しては今でも若干冷ややかなギルベルトを日常見ているだけに、その兄には甘いギルベルトにエリザはため息をつく。

「…あいつはアルトにちょっかいかけねえだろ」
そう言ってギルベルトはチラリとベッドの上で半身起こして刺繍にいそしんでいるアーサーに目を向ける。

「あんた…ホントに独占欲強いよわよねぇ…」
エリザは腰に両手を当てると、俯き加減に息を吐き出した。

「まぁいいか。もう出発して国境待機してるらしいから、OKの返事出して良いわね?
到着はなんのかんの言って1週間後くらいになると思うけど…」

「ああ。迎える準備も任せた」
「おっけぃ。じゃ、そういうことで」
エリザが書面をヒラヒラふりながら部屋を出て行くと、ギルベルトも一休みする事にして羽ペンを置く。

そして
「ルッツ、俺にもお茶淹れてくれ」
と、アーサーのベッド脇の椅子へと向かった。



「なんだ?今日は薔薇か。綺麗だな」
ひょいと刺繍をするアーサーの手元を覗きこんで、ギルベルトは顔をほころばせた。

鋼の国ではあまり見ない繊細な刺繍をアーサーはその白い指先で次々と作りだしていく。
アーサーはそんなギルベルトを見上げると、少し困ったように眉を寄せた。

「もういい加減ベッドから出たいんだけど…」

アーサーはあれからずっとベッドの中で過ごしている。
少し考えたくて風邪のふりをして寝るため飲んだ薬の効果はとっくに切れていて熱も下がっていた。いい加減普通に行動したいと思う。
というか…結局、風邪で寝る=放っといてもらえるという図式が成り立たなかったので、あまり意味はなかったわけだが…。

そんなアーサーの要望をギルベルトは却下した。
「だめだ!まだ顔色が悪い。無理してぶり返したらどうすんだ」
いまだ変わらぬギルベルトの過保護っぷりに、アーサーは色々な意味でため息をつく。

『陛下にとってはあなたは本当に特別な方なんですよ。何人周りに人が増えたところで、誰ひとり代わりになれる人はいません。』
エリザの言葉を思い出す。

そして…信じられないようだから証拠を見せてくれると言った。
提案されたその方法は…正直いいのだろうか?と思うようなものだったが…。
とりあえず…そのために少しでも回復を、と言われて今にいたるわけだが、本当はまだ少し怖い。
もし…ギルベルトが思った通りの反応を示してくれなかったら……
まあ今考えてもしかたないのだが、やはり想像するたび胸が痛む。

「アーサー?どうしたんだ?気分悪いのか?」
考え込んでいたら、ギルベルトが心配そうに顔を覗き込んできた。

どうも自分は気持ちが顔色に反映されるらしい。
落ち込むと自然に顔色が悪くなるし、胸だけじゃなく胃が痛んでくる。

「言ったはしからだめだろ。今日はもう寝とけ」
ギルベルトの手がアーサーから刺繍を取り上げ、そのまま有無を言わさず寝かされた。

「…無理だけはしないでくれよな」
上から覆いかぶさるようにして見降ろすギルベルトの気遣わしげな表情がなんだか落ち着かなくてアーサーは目をそらす。

そんな反応にギルベルトは少し苦笑して
「元気になったら舟釣りさせてやるから。早く元気になれよ?」
と、アーサーの頭を軽く撫でた。


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