生贄の祈りver.普英_10_5

「…じゃ、結局俺にとりいって来いって言われただけなんだな?
他にはなにも聞いてないのか?」
「うん。アーサーの存在もさっき会って初めて知ったよ」

とりあえず国の安全がはかれたと言う事で、素直に自分の身の上を語るフェリシアーノ。


ちらりとギルベルトの視線が向けられた事に気づくと、ロヴィーノは
「こいつ馬鹿だから作り話も隠し事もできないから、嘘じゃない」
と、言葉を添える。

そして、兄ちゃんひどいよ、というフェリシアーノを抗議を無視して、ロヴィーノはさらに
「たぶん…数日も一緒にいればそれわかると思うから、こいつに全部知らせないで、必要になったら随時指示だすつもりだったんじゃねえかと思う」
と、つけ加えた。

「なるほどねえ…。じゃ当分は知らんぷりして相手の動向探るのが正しいって感じ?」
と、エリザがうなづいてギルベルトに打診すると、
「そうだな。じゃ、ロヴィーノには俺様に会ってはもらえなかったって事にして帰ってもらって、フェリシアーノは普通に不自然じゃない程度に俺様と交流持つ感じで。
ただし、適度にな。
あまりに邪険にすれば相手は作戦失敗だと思うだろうし、今までアルトに夢中だった俺様がいきなり掌返したらそれはそれで不自然だから」
と、最終的に決断した。

「なんか、面倒ねぇ…」
とエリザは不満げな顔をするが、ギルベルトが
「アルトのためだし仕方ねえだろ」
と添えると、渋々了承した。

「じゃ、そういうことでお前はいったん帰っておけ」
と、ロヴィーノに命じると、ギルベルトは片側に控えるエリザに
「じゃ、フェリシアーノは部屋まで送っておいてくれ、エリザ。俺様はアルトの様子見てくるわ」
と立ち上がった。

そこでのど元過ぎればなんとやら、
「あ~、アーサーの所行くなら俺も行きたい♪」
とフェリシアーノが手を上げる。
それに露骨に嫌そうな顔をするギルベルト。

しかしフェリシアーノはめげずに
「俺とアーサーのやりとり目の前で見れば、王様にも俺がなんにもアーサーに悪い事してないってわかってもらえると思うよっ。」
とニッコリ主張する。

確かに…なんのかんのいって、さきほどどんな感じのやりとりがなされていたのか、気にならないでもない…。

ギルベルトは仕方なしに
「今度だけだ。アルトには必要以上に近づくなよ」
と、言うと、先に立って歩き始めた。



「ね、王様、さっきの話の続きなんだけど…」
「さっきの話?」
エリザも含めて3人で謁見の間を出ると、フェリシアーノが口を開いた。

「うん。ちょっと一人で出歩いただけでお医者さんて、アーサーどこか悪いの?」

フェリシアーノにとっては素朴な疑問だったわけなのだが、それはギルベルトにとっては古傷をえぐる黒歴史とも言える出来事で…黙り込んだギルベルトの様子に空気を読んだエリザが代わりに答える。

「えっとね、こっちに来たばかりの頃にひどく身体壊して、一度は本当に瀕死くらいまで行ったのよ。体調回復してまだ間もないと言うのもあるし、そうね…私達の感覚だとかなり身体弱くて、私達だったら平気なちょっとしたことでも体調崩して悪化しちゃうから怖くてね、なるべく用心してるの」

「へ~、そうなんだ~」
フェリシアーノは素直に信じて納得する。

「細いし見るからに病弱そうだよねぇ…」
とフェリシアーノがさらに言った時、廊下の向こうから使用人が急ぎ足でギルベルトの方へと向かってきた。

「どうした?」
慌てた様子でまず王への礼をとる使用人に顔をあげさせギルベルトが声をかけると、使用人は少し慌てた様子で告げる。

「はい。実はアーサー様が体調を崩されまして…」
「それなら早く言えっ!!」
ギルベルトはサッと顔色を変え、その後の言葉を待たずに駆け出し、エリザとフェリシアーノも慌ててそのあとを追った。



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